魔法をかけて!

第一章


「それでは、最近売り出し中の新人アイドル・島村瑛璃ちゃんに登場してもらいましょう!瑛璃ちゃん、どうぞー!」


町の電気屋の前をたまたま通りがかった時、とあるアイドル番組が放映されていた。
私はなんとはなしに立ち止まり、その番組を見てみた。

番組内では、キレイで可愛らしい衣装を着た私と同じ年くらいの少女が歌って踊っていた。
笑顔で歌う彼女を見ていると自然と私の顔にも笑顔が浮かんできた。

ふと気づけば、テレビの周りには私以外にも人がたくさん集まってきていて、皆がそれぞれに彼女を応援していた。
彼女を応援している人々の顔にも笑顔が浮かんでいた。


アイドル、か〜…
たった一人の笑顔が、多くの人々を笑顔にする。
アイドルにはそんな力がある。

私はそんな人になりたかった。
私の力で日本中の人々を、世界中の人々を笑顔にしたい。
常日頃からそんなことを思っていた。


だけど、自分のことはよく知っているつもりだった。
私にアイドルになるような魅力も実力もない。
私の笑顔じゃ、世界中の人々を笑顔にすることはできない。

だからこそ、その日の帰り道、何気なく電柱に張り出された一枚のポスターに興味を惹かれた。

『スタッフ求む!765プロダクション』

ポスターの説明文によると、765プロダクションは最近設立されたばかりのアイドル事務所だという。
主に事務員の募集を募っているとのこと。


私はこの時、高校2年生。
多くの高校生がそうであるように漠然と大学進学を考えていた。
将来設計が無いわけでは無かった。
ただ、それもまた漠然としすぎていて、ただ単に“皆を幸せに出来るような職業に就きたい”と、そんな将来設計だった。

このポスターを見た時、その漠然としていた将来設計が、急に形を帯びたものになった。

これだっ!
私の夢、見つかった!



翌日、早速そのポスターに書かれていた電話番号に電話をかけ、アポイントメントをとってから都内にある765プロダクションへと向かった。
アイドルがダメなら、アイドルを傍から支えられる立場になればいい。
皆に笑顔を振りまくアイドルが、常に笑顔で仕事が出来るように支えてあげられれば。
そうすれば間接的に多くの人々を笑顔に出来る、幸せに出来る、そう考えたのだ。


まずはプロデューサーとしてアイドルを育て、ゆくゆくは事務所も設立しよう、765プロダクションへと向かう途中、私は早くも将来設計を組み立てつつあった。


765プロダクションは酷いボロアパートの2階にあった。
つい最近設立したばかりということもあって、圧倒的に人員や資金が不足しているためらしい。

こんな事務所に果たして高校2年生の私が雇ってもらえるのか、という不安はあったものの今更引き返すわけにもいかず、いやいっそ私の力でこの事務所を裕福にしてしまえばいいのよ、と思い直し事務所内に入って行った。

人員不足ということから、私が学生であるにも関わらず即採用ということになった(ただし、未成年であるためアルバイト扱いという具合だったけど)。
まあ、面接時に私が見せた計算能力も採用の一つにはなったみたいだけど。


「とりあえずは事務仕事をやってもらうが、いいかな?」
高木社長にそう言われた私は、事務員である音無小鳥さんに一通りのことを教えてもらい、その日から仕事を始めることになった(この日は土曜日だったので学校は休みだ)。

仕事を始める前に気になったことがあったので、音無さんに尋ねてみた。
「音無さん、今日は事務所の他の方はいらっしゃらないんですか?」
「小鳥でいいわよ、秋月さん。今のところ、765プロの人員は秋月さんや所属アイドルの子も含めて6人。その内事務員が私と秋月さん、プロデューサーの方が2人、そして新人アイドルの娘が2人よ。」
「音…小鳥さん、社長のこと忘れてますよ?それから、私のことも律子でいいです。」
「あらら、うっかり。あ、社長には内緒にしててね、律子さん?」
舌を出しながら、いたずらをみつかった少年のような顔で小さく笑う小鳥さん。彼女の笑顔もなかなか魅力的だ(聞けば彼女も昔アイドルだったと言う)。


つられて私も笑ってしまう。
「はい、分かりました。社長には内緒にしときますね。ところで、そのプロデューサーさんたちや、アイドルの娘たちは…?」
「今はレッスン場に行っているはずよ。もうそろそろ帰ってくる頃だと思うんだけど…」
小鳥さんが言い終わる前に事務所の扉が開き、1人の男性と1人の女性が入ってきた。

「小鳥さん、今帰りました。」
「うふふ、ただいま帰りました〜。」
「あ、プロデューサーさんにあずささん、お帰りなさい。お茶入れましょうか?」
「お願いします。」
「分かりました。あれ、そういえば千早ちゃんとヨウカさんは…?」
「ああ、あの2人はまだレッスン場です。どうやら、千早がもう少しレッスンを続けたいようで。」
「そうですか。千早ちゃん、努力家ですものね。」

どうやら帽子を被っている男性がプロデューサーのようだ。そして、一緒に入ってきたおっとりした感じの女性が彼の担当アイドルということらしい。
「あ、そうだプロデューサーさん!今日から一人、事務所に新たなメンバーが増えたんですよ!律子さん、こちらがプロデューサーのヨウイチさん。かつて所属していた事務所では敏腕プロデューサーとして活躍されてたんですよ。そして隣の方がアイドル候補生の三浦あずささん。それからプロデューサーさんにあずささん、こちらが秋月律子さん。まだ高校2年生ですけど、なかなか腕が良くて事務の仕事をやってもらうことになりました。」

小鳥さんにそう紹介され、私は席を立ち挨拶をした。
「どうも初めまして。秋月律子と申します!これからよろしくお願いします!」
「ん、こちらこそよろしく、律子、でいいかな?」
「うふふ、よろしくお願いしますね、律子さん。」
それから私たちは握手をした。


これが、私とプロデューサーとの最初の出会いだった。

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