魔法をかけて!
プロローグ
「律子、来週“True Snow”が出演する例の番組の件だけど、どうなってる?」
「え〜っと、先方からはまだ連絡が来てないですね。ただ、遅くとも今日中には連絡をするということなので、連絡があり次第伝えます。」
「了解、それじゃあメールで伝えてくれ。俺はこれからあずささんと美希の営業に行ってくるから。」
「分かりました、お気をつけて、プロデューサー!」
ここはアイドル事務所である765プロダクションの事務室。
私こと、秋月律子は今パソコンに向かって現在担当しているアイドルユニット、“True Snow”こと菊地真と萩原雪歩のスケジュール管理を行っている。
「あ、律子〜。“スタイリング沼倉”との衣装合わせの約束いつだったか覚えてる?」
「来週の月曜日の午前中ですよ、ヨウカさん。もう、自分が約束したことくらいしっかり覚えておいてください、って何度言ったら…」
「あっはは〜、ゴメン、ゴメン。でも律子が覚えてくれているから助かるわ〜。」
「助かるわ〜じゃないですよ、本当にもう…」
765プロには現在プロデューサーが3人いる。
1人はいつも帽子をかぶっている男性プロデューサーのヨウイチさん。彼は超売れっ子プロデューサーであり、現在売れに売れているスーパーアイドル“三浦あずさ”や、超新人・未完のビジュアルクイーンなどと呼ばれて現在人気沸騰中の“星井美希”、元気いっぱいのニューフェイスチャイドル“双海亜美”のプロデュースをしている。昨年までは私“秋月律子”のプロデューサーでもあった。
もう1人は元アイドルで、伝説の歌姫・無冠の女王と呼ばれている藤乃陽一(ふじのようか)さん。彼女も敏腕プロデューサーとして、クールクイーン・青き歌姫“如月千早”や、最近ようやくメジャーアイドルとして認知され始めた天海春香と高槻やよいのユニット“Sky High!”のプロデュースをしている。アイドル時代は、ヨウイチプロデューサーの下でアイドル活動をしていたみたい(その辺りの詳しい話はいずれどこかで)。
そして最後の1人が私、秋月律子。去年まではアイドルとしてヨウイチプロデューサーの下で活躍していたのだけど、その年のアイドルの頂点を決めるオーディション“アイドルアルティメイト”で優勝、その後引退して元々の目的であったプロデュース業に転向した。現在は、今年のビジュアルマスター優勝最有力候補と言われている“水瀬伊織”と、黒と白の正反対な2人菊地真と萩原雪歩のユニット“True Snow”のプロデュースをしている。
「あ、律子さん。あの〜、この間頼んでおいた書類のことなんですけど〜…」
「出来てますよ、小鳥さん。えっと、確かこの辺に〜…」
私は小鳥さんに頼まれていた書類を探すために、机の棚に手を伸ばした。
と、その時。
ハラリと、書類の間に挟まっていた一枚の写真が床に落ちた。
「あれ、律子さん。何か落ちましたよ?」
「あ、ありがとうございます。」
「あ、この写真…」
小鳥さんが拾ってくれたその写真、それは私が初めて受けたオーディション“ルーキーズ”で合格した時の、私とプロデューサーのツーショット写真だった。
「これ、懐かしいですね。」
「ええ、この時は私なんかが本当にアイドルやっていけるのか、っていう気持ちでいっぱいでしたね。」
「でも律子さんは見事にトップアイドルにまで上り詰めた。」
「本当に、未だに信じられません。あ、これですね。どうぞ小鳥さん。もうミスしないでくださいね?」
「うっ、申し訳ないです…」
私は、先ほど落とした写真を再び棚に戻そうとして、その手を止め、もう一度その写真を眺めてみた。
「……本当に、私がトップアイドルになっちゃうだなんて、ね…」
私は、初めて765プロにやってきた時のことを思い出していた…………