第三幕 五角館の殺人

解答編2

〜あゆ〜

「犯人はあの時、この現場にいなかったんだよ。犯人だけじゃない、邦晴さんもこの部屋にはいなかったんだよ。」
ボクは皆の前でそう告げた。当然、皆がおかしな顔でボクを見る。
「ちょっと、あの時この現場にいなかったってどういうこと?!だってあの時邦晴さんは確かにこの“ペンタゴンハウス”にいるって…」
「確かに、邦晴さんはそう言っていた。だけど、誰も邦晴さんが確かにあの時“ペンタゴンハウス”にいたことを確認していないよね?」
「…どういうことなの?」
「つまり、あの時邦晴さんが“ペンタゴンハウス”にいた、っていう情報は邦晴さんが言っていただけだってこと。」
「それじゃあ叔父さんが嘘をついていた、っていうわけ?」
「そうじゃないよ、伊織ちゃん。邦晴さんは嘘をついたわけじゃない。…ともかく、今から一つずつ説明していくよ。」
 ボクは一旦その場にいる全員を見渡し、一息つく。さて、どこから話そうか。
「まず、さっき律子さんがして見せた推理、あれは間違いなんだ。」
「た…確かに、地下室に死体を運んだっていうのは内側から地下室を絞められない以上無理だって分かったけど、でも密室トリックができたのは郷里さんだけしかいないってことは間違ってはいないハズよ?!」
そう言って律子さんは郷里さんのほうを見る。
「だから、俺はやってないって…」
否定する郷里さん、犯人と疑われてかなり焦っているみたいだ。
「分かってますよ、郷里さん。順番に説明していきます。
 まずあの時、ボクたちや律子さんたち、そして早織さんはホールにいて早織さんのお茶を飲んでいた。その時、邦晴さんから“ペンタゴンハウス”にいて襲われているから助けに来てくれ、という内容の内線電話がかかってきたので、ボクらは真っ先に現場へと向かった。向かうときに、ホールの向かいの部屋の黒木さんが出てきたのを確認しています。その後“ペンタゴンハウス”に到着、鍵がかかっていて合鍵は早織さんしか持っていないけど、早織さんは足が悪いので到着が遅れていたため律子さんが代わりに合鍵をもらってきた。合鍵を使って鍵を開け、中へ入りますが犯人どころか邦晴さんもいなかった。この頃には郷里さん以外のメンバーが揃っていた。これが昨夜の状況。この間2分弱くらいだったかな。」
「やっぱり犯人は郷里さんくらいしか考えられないじゃない!密室トリックの件もそうだけど、アリバイが無かったのは郷里さんだけなんだし…!」
「そう、そこが不自然なんだよ。ただでさえアリバイが不確実で疑われる要素がある上に、さらに自分にしか作れない密室状況を作ることに何のメリットがあるって言うの?」
「そ…それは、裏の裏をかくため、とか…?」
「警察はそんな理由で邦晴さんから疑いを晴らしたりしないよ?これだけの状況証拠が揃っていれば有罪確定だよ?郷里さんが犯人であるならば、自分がさらに疑われるような密室トリックを使う意味がないということ。逆説的に言って郷里さんは犯人ではないんだよ。」
「じゃあ、犯人は一体誰なんです?」
「犯人に迫る手掛かり、それは電話だよ。」
「電話?」
全員が一斉に不審がる。その中で最初に真ちゃんが口を開く。
「電話って、一体どういうことですか?」
「考えてみて、真ちゃん。あの時、邦晴さんはどうしてホールに電話してきたの?」
「えっと、それは助けを呼ぶためで…」
「だから、それがどうして“ホール”なの?」
「…えっ?!」
「どうして、“ホール”……?…あっ!?」
 律子さんは気付いたみたい。さすが、間違っていたとはいえ、密室トリックを推理してみせただけのことはあるみたいだね。
「ちょっと、どういうことなの?!詳しく説明なさい!!」
「まあまあ伊織、落ち着いて。確かに変なのよ、邦晴さんが“ホール”に電話をかけてくるなんて。」
「律子さんの言うとおりなんだよ。」
「何が変なんですか〜…?あの時、私たちは合鍵を持ってる早織さんと一緒にホールでお茶を飲んでいたわけだから、邦晴さんが助けを呼ぶためにホールに電話をするのは普通なんじゃ…」
「じゃあ、どうして“ホールに早織さんがいる”って分かったの?」
「えっと、それは分かるんじゃないかしら?お父様は私がいつもあの時間にお茶を淹れていたのは知っていたはずですから…」
「確かにそうかもしれない。だけど、早織さんは足が悪くて走れないんだよね?だったら、早織さんに真っ先に電話をするよりも、管理人である黒木さんの部屋に電話して、黒木さんが早織さんから合鍵を貰って助けに来てもらうのが筋じゃないかな?」
「あ…!」
「確かに…あの時、私たちがホールにいたのは偶然。早織さんがホールにいることは予測できても、ほかに誰かがいるかどうかは分からない。確実に早く助けてもらおうと思うなら、最初に黒木さんに連絡すべき…」
「舞さんの言うとおりね…となると、どうして邦晴さんは黒木さんに電話をしなかったの…?……まさかっ!!」
 律子さんがそこまで言ったところで、全員の視線が黒木さんに集中する。
 ボクはそこでまた一息吸って告げる。
「それは、その時黒木さんの部屋に電話が繋がらなかったから…何故なら、邦晴さんは黒木さんの部屋に監禁されていて、黒木さんの部屋の子機から黒木さんの部屋にかけることになったから。だから繋がらなかった。そこで恐らく早織さんの部屋に直接電話もしてみたんだと思う、早織さんの部屋は“ペンタゴンハウス”に近いからね。それでも出ないから最後にホールに連絡して早織さんに直接助けを求めることになった…」
「ちょっ、ちょっと待って、あゆちゃん。黒木さんの部屋に監禁されていたって、どういうこと?」
 そこで名雪さんが当然の質問を挟む。
「そうよ、そう言えばアンタ、さっきも叔父さんも犯人も“ペンタゴンハウス”にいなかった、みたいなことを言ってたけど、それってどういうことなのよ?!叔父さんは確かに“ペンタゴンハウス”にいるって言ってたのよね、早織姉さん?」
「ええ、確かにそう言ってたわよ…」
「だったら……!」
 そこで伊織ちゃんが何か言いかけていたのをさえぎって、今度は真琴ちゃんが割って入る。
「ふっふっふ〜、それこそが今回の事件で使われた本当のトリックなのよ、デコちゃん!」
「んなっ?!あんたにデコちゃんって呼ばれたくないわよ!!」
「まあまあデコちゃん、落ちつこ?」
「なっ…名雪、アナタまで……!!」
「えっと…、それでトリックって言うのは…?」
 真ちゃんが騒ぎ始めた伊織ちゃんに代わって尋ねる。
「スゴク単純なんだけど、黒木さんは自分の部屋を“ペンタゴンハウス”に見せかけたんだ。まあ、実際に見てもらったほうがいいよね、付いてきて。」


 ボクは皆を連れて、先ほど仕掛けを施したボクの部屋にやってきた。
「黒木さんは、こうやってごく普通の部屋を“ペンタゴンハウス”のように見せかけたんだ。」
 そう言って、ボクは自分の部屋の扉を開ける。
「あ…、これは……?!」
「部屋が五角形になってる…?」
 部屋の中に真ん中に孔の空いた5本の木の柱を立て(木の孔の中には蝋燭を立てておく)、木の柱の側面部分に薄い切れ込みを入れておいて、そこに倉庫にあった余りの白いカーテンを挟み“壁”を作る。こうすれば四角形の部屋を五角形に仕切ることが出来る(下図参照)。

「これはすごく簡単に作っただけだけど、実際には部屋の本棚を移動したり、似たような時計を掛けたりして限りなく“ペンタゴンハウス”に近く細工したんだとは思うけどね。」
 ボクは仕掛けに使われたと思われるこの孔の空いた木の柱を倉庫に探しに行ったのだけど、残念ながら倉庫にはなく(恐らく海に捨てたんだと思う)、代わりに手近にあった木に舞さんの刀で細工してもらって、急場でこの柱を作ったのだった。
「これがあの時使われたアリバイトリック。そして、その犯人は黒木さん、アナタです。」
 ボクはゆっくりと告げた。