第三幕 五角館の殺人

問題編4



ペンタゴンハウス見取図

〜真〜  
“五角館”に辿り着いたボクたち。邦晴さんに案内されてやってきた館は、ごく普通の旅館のような外観だった。
「あれ、なんだか普通の館みたいですね?“五角館”って聞いてたから、五角形の館なのかと思ってたけど…」  
律子が当然の疑問を口にする。確かにボクもそのことが気になっていた。
「ああ、そうなんですよ。館そのものは五角形ではなく、カタカナの“コ”の字型をしています。」
「え、そうなんですか?じゃあどうして“五角館”だなんて…」
「それは、後で説明しましょう。まずは皆さんを部屋に案内させましょう。黒木!」
「は、了解いたしました、旦那様。」  
それからボクらは部屋の鍵を渡され、それぞれの部屋に案内された。ボクらの部屋は2階で、階段を上がって右手側“コ”の字の上の辺に当たる側の奥からあゆさん・真琴ちゃんの部屋、名雪さん・舞さんの部屋が、左手側“コ”の字の縦棒に当たる側の手前から律子の部屋、ボクと雪歩の部屋が、さらにその奥“コ”の字の下の辺に当たる側に伊織の部屋、となっている(見取図参照)。それぞれの部屋にはベッドが2つずつ備え付けられていて、本棚まで置いてあった。本棚にはたくさんの本が置いてあって、洋書や文庫本なんかも置いてあった。
「ねえ、ねえ、真ちゃん、これ見て。私たちがモデルになったアニメ作品『アイドルマスターXENOGLOSSIA 』の小説版まであるよ。」
「うわ、本当だ…。その隣には“よく分かる相対性理論”とか“フェルマーの最終定理の証明”とかなんだか難しい本が…。一体どういう基準で本を並べてるんだろう?」  
そんな感じでボクと雪歩が部屋の中の本を眺めていると、部屋の扉をノックする音が聞こえて、伊織が入ってきた。
「アンタたち、何やってるの?部屋に荷物置いたら下の階に集合だって、言われたでしょ?」  
そうだった、部屋に荷物を置いた後で何故この館が“五角館”と呼ばれているのか説明してくれるという話だったんだ。
「あ、ゴメン伊織!ついつい部屋の本が気になっちゃって…」
「ああ、確かに気になるわよね。私の部屋には何故か『灼眼のシャナ』とか『ゼロの使い魔』とかいうライトノベル作品から『ハヤテのごとく!』とかいう漫画作品まで並んであったわ。」
「……それは何故だか分るような気がします…」
「え、何か言った雪歩?」
「え、ううん、何でもないよ!じゃあ行こっか、真ちゃん!」  
雪歩に急かされる形で1階へと降りていくボクたち。
 
ボクらが着いた時にはすでに律子と名雪さんと舞さんが入口前にいた。
「あれ、あゆさんたちはまだ来ていないんですか?」  
そうボクが尋ねると、
「ああ、恐らく部屋の本が気になって仕方がないんじゃないかな?」
と笑いながら答える邦晴さん。
「部屋の本、ですか?私の部屋には夏目漱石とかシェイクスピアの本が並んでましたけど…」
「わたし達の部屋には英語で書かれた本がいっぱいだったよぉ〜。」
「名雪、あれは英語じゃなくてドイツ語。」
「あ、そうなんだ。そういえば舞さんはドイツに留学されてたんでしたっけ?」
「ああ、佐祐理と同居してるって話だったかしら?」
「へぇ!川澄さんってドイツ留学されてるんだ!ドイツってどんな感じなんですか?!」  
律子、伊織、名雪さんが舞さんのドイツ留学の話で盛り上がり始める。ああ、地理にあんまり詳しくないボクにはさっぱり何の話をしているのか分からないよ…(苦笑)  
そんなことより、あゆさんの部屋の本のことが気になったボクは邦晴さんに尋ねてみた。
「ところで、あゆさんの部屋にはどんな本が置いてあるんですか?」
「気になるかい?彼女の部屋にはね…」  
邦晴さんが口を開きかけたところで、階上から声が聞こえてきた。
「ねぇ、あゆあゆ、早く下に降りようよぉ〜!そんな本なんて後で読めるじゃない!」
「ちょっと、待って!金田一耕助のシリーズでもこの角川文庫版の『死仮面』ってけっこうレアな作品なんだよ!何せ…」
「彼女の部屋の本棚にはたまたま推理小説がぎっしりと並んでいましてね。推理小説好きな彼女の琴線に触れる作品も多いハズだよ、あのようにね。」
「はぁ、なるほど…」  
ようやく降りてきたあゆさんの左手には黒いカバーの文庫本が握られていた。これが、先ほどの会話に出てきた“金田一耕助”シリーズの『死仮面』みたい。かなり古そうな本ではあるようだけど…
「さて、皆さんそろいましたかな。伊織はもう知っているだろうが、今からこの館が“五角館”と呼ぶ所以となった建物へご案内しましょう。」  
そう言って建物の外へと出る邦晴さん。ボクらも後を付いて外へ出る。邦晴さんは館を右手にして歩きだし、角をさらに右に曲がった。  
と、その目の前に現れたのは…
「これが“五角館”の名前の由来となった私の書斎“ペンタゴンハウス”です。見ての通り、五角形をしているでしょう?」
 
“ペンタゴンハウス”として紹介された邦晴さんの書斎、それは文字通り五角形の形をしていた(見取図参照)。
「なるほど、五角形の書斎ですか。なんというか、変わってますね…」
「ふふ、まあそうだろうね。これは単なる私の趣味で、本来この島に建っていた“十角館”を意識して建てたんだ。」
高さは3m近くあり、館のホール側に向いている扉の高さで2m50cmはあるだろうか、ボクが背伸びをしてギリギリ届くくらいの高さがある。
「中に入ってみるかい?」
と邦晴さんが言うので、扉に手をかけてみたところ、
「あれ、カギがかかってるんですか?」  
押しても引いても開かない。
「ああ、そっち側の扉は“開かずの扉”となっているんだ。入口はこっちだよ。」  
邦晴さんはそう言うと、ボクらを本当の扉の方へ案内し、中へと招き入れてくれた。

〜あゆ〜  
なるほど、確かに五角形をしているみたい。それに“開かずの扉”だなんて中村青司を思わせる作りだ(そう言えば、館のホールに当たる部屋の外側にも扉がついてあったけど、あれもどうやら“開かずの扉”みたいだった)。  
でも、それ以上に確かにこの“ペンタゴンハウス”からは“何か”を感じる。それは舞さんも感じているようで、
「何か禍々しいものを感じる…」
と小声で話しかけてきた。
「うん、舞さん。……何だか、嫌な予感がするよ。」  
これは『死仮面』なんて読んでる場合じゃないかもしれないな(内容が気になりはするけど…)。
 
邦晴さんが中に入れてくれるというので、ボクらは“ペンタゴンハウス”の中へと入ることになった。  
中は、五角形であるという以上に変わった点はパッと見では見当たらなかった。ただ、なんとなくだけど壁が迫ってくるような、ちょっと窮屈な印象を受けた。外観ではすごく広そうな印象を受けたのだけど、中に入ると意外に狭く感じた。これは五角形の真ん中の頂点から扉側へと壁が迫って来ているからそう感じただけなのかな?  
入って扉の目の前に机があり、机の上にはペンが1本と電話の子機、メモ帳に数冊の本があるくらい。机の上に置かれている本は『十角館の殺人』だった。それから、本棚の方を見るとやはり中村青司の館に関するミステリ小説や中村青司の伝記のような本がおいてあり、その他には建設関係の本が占めていた。  
「あれ、この柱なんだか変わってますね?」
ボクが本棚の本を見ていたら、律子さんがそう言っているのが聞こえた。その声につられてボクも五角形の頂点に位置する部分の柱を見てみた。
「あ、本当だ、孔が空いてる。中には…、ろうそくが入ってるんだ。」  
調べてみると、五角形の五隅の全ての柱に同様の仕掛けがしてあった(図“ペンタゴンハウス”参照)。
「ええ、ちょっと変わっているでしょう?それも私の趣味でしてね。電灯の光が無性に嫌になる時がありましてな。そんな時は電灯を消して、ろうそくの灯だけで明かりをとって、気分を落ち着かせるのです。」
「ああ、そーいえば叔父さん以前そんなこと言ってたね。」
「その癖、まだ治ってなかったの?いい加減根暗な癖は直しなさいって言われてるでしょう?」  
名雪さんと伊織さんのそんな会話が聞こえる。  
そう言えば、先ほど“開かずの扉”があった側の壁には扉が無かった。なるほど、外側にのみ扉があるだけで、内側には扉が無いのか。それじゃあ扉としては機能できないわけだ(後で調べてみたところ、本館のホールにつけられている“開かずの扉”も内側に扉は無く、外側にのみ扉がついているだけだった)。  
真琴ちゃんは飽きたのか、すでに部屋の中にはおらず外でバッタを見つけて追いかけていた。真琴ちゃんを一人にして大丈夫かなと思ったけど、よく見たら傍には舞さんがいて、付き添ってくれているみたいだから大丈夫かな(あれで舞さんは面倒見がすごくいいからね)。  
壁の天井付近を見ていると、時計が目に入ってきたんだけど扉側を下の辺とした時の左上側の壁と右下側の壁に時計がそれぞれついてあって、  
「あれ、こちら側の時計は止まってますね?」
「あ、本当だ。雪歩、よく気づいたね?」  
雪歩ちゃんと真ちゃんが言うように、右下側の壁の時計は止まっていた。その時計はローマ数字で数字が入っているタイプで見た感じ古いと分る代物で、もう一つの時計はアラビア数字で真ん中にアナログ時計も入っているタイプで新しい型だなと分かるものだった。
「ああ、その止まっているやつはずっとそのままなんですよ。」
「え、電池切れとかですか?」
「いえ、あれはネジを回すタイプなんですが、ネジを無くしてしまいましてね… 古峨精計社に作ってもらった特注品ですので、捨てるわけにもいかず、そのまま物置に、というのも気が引けまして、あのまま飾った状態にしておるのですよ。」
「古峨精計社ってあの有名な時計を作っている会社?」
「おお、秋月律子君は知っておられましたか。そうですよ、その古峨精計社です。月宮あゆ君もご存じなんじゃないかな?」  
邦晴さんは当然ボクが知っているハズだという感じで聞いてきた。もちろん知っている。知らないハズが無い。
「“時計館”、ですよね?」
「さすがだね、その通りだよ、月宮君。」
「“時計館”って言うと……、例の中村青司の?」
「また中村青司なの?もういい加減にして欲しいわね。」
伊織ちゃんが心底飽きたという顔をしている。  
中村青司の建てた“時計館”、そこは古峨精計社の元社長が彼に依頼して建てた建物で、中には世界中から集めたという様々な時計が飾られていることから“時計館”の名で呼ばれるようになったという。
「私が中村青司に習って建てたこの館に、古峨精計社の時計。なかなかに運命的だとは思いませんか?」  
邦晴さんは思わせぶりにそう言うのでした。

〜真〜  
ボクたちは“ペンタゴンハウス”を後にして、“ペンタゴンハウス”の扉の正面にある本館の扉から中に入って、コの字型の廊下を通ってホールに案内された。  
そこでは今回のパーティに招かれたらしい人たちがそろっていた。
「さて、それでは皆さんに彼らを紹介しましょう。」  
邦晴さんはそう言うと、まず一番手前に座っていた女性を指し、
「彼女は私の娘で水瀬早織だ。伊織とは1年ぶり、名雪とは数年ぶりになるのか?」  
紹介された女性、早織さんの髪型は名雪さんそっくりで、目元は伊織にそっくりな方だった。背は150cmくらいかな。女のボクから見てもすごく美人な方だ(ボクもいつかこういう美人な女性に…)。
「どうも、皆さん初めまして。伊織、この間テレビで貴女のこと見てたわ。アイドル頑張ってるみたいね。名雪、本当に久しぶりね。最後に会ったのは、貴女が子供の頃だったかしら?」
「みっ…、見てたの?!」
「わぁ〜、早織姉さん久し振りだねぇ〜」
「あれ?!水瀬早織さんってまさかあの有名ブランド“SAORI”の女性社長の?!」
「あら、あなたは秋月律子さんね?伊織がお世話になってますわ。私のことご存じでしたのね?貴女のような伝説のアイドルの方に知られているなんて光栄ですわ。」
「そ…そんな伝説だなんて…あなたの方が…」
「ねぇねぇあゆあゆ、ぶらんどって何?」
「真琴ちゃんやボクたちには一生縁のない言葉だよ…」
「あの“SAORI”の社長さんって伊織ちゃんの親戚の方だったんだぁ〜。すごいねぇ、真ちゃん。」
「そうだね、それにすっごい美人さんだし。」
「さて、積もる話もあるだろうが、まずは他の方たちを紹介してもよいかな?  
次に彼、彼は私の右腕とも言える人材だ。郷里政次君だ。」  
そう言って紹介された男の人は、かなりの長身の方で、180cmくらいはあるんじゃないかな。体格もガッシリしていて、見るからに力仕事をしています、という感じの方だった。
「どうもお嬢さん方、はじめまして。郷里政次と申します。伊織ちゃんとは1年ぶりだよね、久し振り。とは言っても、最近はよくテレビで見てるから久しぶりな感じはしないけどね。それから“True Snow”のお二方に秋月律子さん、お会いできて光栄です。実は密かにあなたたちのファンなんですよ、サインもらってもいいですか?」
「え、あ…私たちにですか?!」
「あ、え〜っと、本当ですか?!へへ〜、なんだか面と向かって言われると照れますね。」
「私はもう引退しちゃってますけど、未だにファンでいてくれている方がいらっしゃるというのは嬉しいですね。」
「ちょっとお、郷里さん?私のサインはいらないの?」
「ああ、伊織ちゃんのサインももらおうか。  
あ、それからそこの君、月宮あゆちゃんだっけ?」  
と、ボクたちからサインをもらっていた郷里さんがあゆさんに話しかけた。
「え?!あ、はいボクは月宮あゆですけど…」
「やっぱりね〜。君、先日倉田家で起こった殺人事件を解決したんだってね?我々の世界では有名だよ。」
「ええっ、倉田家の殺人事件を解決したのってアンタだったの?!」
「おお、あゆあゆ有名人だねぇ〜。」
「殺人事件を解決?!あゆさん、それって本当なんですか?!」  
あゆさんが殺人事件を解決した、それも先日起こった倉田家の事件(この事件はかの倉田財閥の家族に起こった事件ということでかなり有名になっていた)を解決したというのは初耳だった。
「え、あ…あ〜、あれはたまたまで…」
「たまたまで事件は解決できないと思うわよ。」  
と、テーブルの一番奥に座っていた中年の女性が会話に入ってきた。
「あ、ごめんなさいね。邦晴さんに紹介される前に自己紹介を。私は米田弘子と申します。まあ邦晴さんとは親しい付き合いをさせてもらっています。」  
弘子さんは早織さんよりは少し背が高くて、足がすっかり隠れているほど長いドレスを着ていた。邦晴さんと親しい関係って…
「ま、いわゆる愛人ってやつよね。と言っても叔父さんの奥さんは亡くなっているから、愛人って言ってもやましい意味では無いんだけどね。」  
伊織がボクの耳元で囁きかけた。なるほど、やっぱりそういう関係なのか…
「さて、皆さんの紹介が終わりましたかな。現在この館の管理人である黒木が料理を作っておりますゆえ、パーティが始まるまでしばらく皆さんご自由にしていてください。  
私はそれまで“ペンタゴンハウス”にて読書をしていますので、ちょっと失礼させてもらいますよ。」  
そう言うと邦晴さんはホールを出て行った。  
残されたボクたちは、それからパーティが始まるまで雑談を楽しんだ。とは言っても、主にボクらのファンであるという郷里さんとの会話が主で、律子さんも含めてボクら4人で何曲か歌うハメになっちゃったけど(まあ皆さん楽しんでくれたから良かったな)。