第三幕 五角館の殺人

問題編3

〜あゆ〜
「少し早く着きすぎたみたいね。ここから先は海を渡るわけだけど、もうすぐ迎えが来るハズだから、しばらく待っていてもらえるかしら?」
「叔父さんがクルーザーで迎えに来てくれるんだよね?」  
大分県、S半島J崎に着いたボクたち一行。
伊織ちゃんと名雪さんの話を聞きながらも、ボクの眼はずっと海の向こうを見ていた。
正確には、海に浮かぶ“角島”を。  
「そう言えば、あゆさんたちは知っていますか、あの“角島”で起こった事件について。」  
765プロのアイドルユニット“True Snow”の一人、真ちゃんがボクに話しかけてくる(祐一君曰く、765プロ始まって以来の最高のアイドルになるに違いないって言っていたけど、…ひょっとして祐一君、ボクっ子が好きなだけなんじゃ…)。
「うん、知ってるよ。“青屋敷”の炎上に、“十角館”の殺人事件。前々からこれらの“中村青司”にまつわる事件には興味があってね、いつかは来てみたいなと思ってたんだよ。」
「え、そうなんですか?!」
「うん。だから今回の旅行はすっごく楽しみだったんだ!」
「あ、それならこんな話も知ってますか?これからボクたちが行く“五角館”って、その“中村青司”の建築様式を模して、伊織の叔父さんが造ったものらしいですよ?」
「え、そうなの?!」  
それはボクにとっては初耳のことだった。これから行く“五角館”が“中村青司”の建築様式を模して造られた建物…
 
―――――ドクン!!
 
なんだろう、この胸の感じ…  
何か、とてつもなく嫌な予感が押し寄せてきた…  
これは、一体…?!

「あ、来たわよ!さ、行くわよ!」  
そこに、伊織ちゃんの声が聞こえてきた。どうやらクルーザーが到着したみたい。
「お、本当だ!」
「うわ…、大きい…」
「うっわあ〜〜!!すっごく大きな船〜!」
「…って、大きすぎじゃないの…?」
「なんだか叔父さんらしいね…」
「そう?あれくらい普通だと思うけど…」  
そう言いながら、皆クルーザーの方へと近寄っていく。

―――――ドクン!!
 
ボクは、未だ動けずにいた…  
なんだろう、この胸騒ぎの正体は…?
「…中村、青司…」  
と、ボクの後ろにいた舞さんがつぶやいた。
「貴女も感じたのね?…あの島から感じられる、禍々しい空気を…」
「舞、さん…?それって、一体…?」
「また、貴方の力が必要になるような事件が起こるかもしれない。」  
“かもしれない”とは言っているけど、舞さんはおそらく、いや、ボクも確信している。
「“中村青司”の館………」  
“五角館”、直接中村青司が関わったわけではないけど、中村青司の建設様式に則って造られた館…
 
今、惨劇の舞台へとボクたちは向かおうとしている…

〜真〜  
迎えに来たクルーザーに乗り込んだボクたち一行。  
とても個人所有とは思えないほどの大きさを有していて、ちょっとした安い客船と言ってしまってもいいような感じだった(これが普通だと言ってしまえる伊織の感覚には相変わらずついていけない…)。
おまけに、甲板にはプールまで設置されてる…。前言撤回、安い客船なんかには決してこんなものはついていない、豪華客船の1/2スケールのプラモデル、って感じ…
「…次の真たちのプロデュースは船上で…ってのもいいかもしれないわねぇ〜…」  
何かが刺激になったのか、なんだか律子は突然仕事モードに入っちゃったみたい(苦笑)
「律子さん、なんだか目が輝いていますね、よっぽどいい企画が思い付いたのかな?」
「そうかもね。にしても、こんな所に来てまで仕事のこと考えなくてもいいのに。」  
そう、律子は黙ってるけど、ボクたちは知っている。彼女はボクたちがアイドルとして成功するために、毎日身を粉にして動き回ってくれている。企画の立案、そのための資金回収、プロモーション、ボクらのスケジュール組みなどなど…  
彼女のモットーとして、“徹夜は逆に効率が悪くなるからしない”というのがあるけども、徹夜をしないだけで、1日の睡眠時間が3時間くらいしかないということをヨウイチプロデューサーが言っていたのを聞いたことがある。  
だからこそ、こういう旅行の時くらいのんびりして欲しいんだけど…
「ま、生真面目な性格は今に始まったことじゃないでしょ?  
むしろ、あれくらい真剣に私たちのことを考えてくれてるなんて、ありがたいことじゃない?」
「でも…」
「律子が頑張ってくれてる分、私らがステージで答えてあげなきゃ、でしょ?」
「そうだね、伊織ちゃんの言うとおりだよ!私たちも頑張らなきゃ!」
「そ!だから、これからの激務に備えて、私たちはこの旅行でパーっと英気を養いましょ!!」
「って、伊織はただ休みたいだけじゃないのか?!」
「あはははははっ!」
「にひひ♪」  
そうだね、伊織の言うとおりだ。律子が休みの日でも頑張ってくれてるなら、ボクたちはその分、ステージで答えなきゃ。  
だから律子、ボクたちは思いっきり羽を伸ばさせてもらいます!!
 
「わ〜い!!プールだ、プール!!さあ、あゆあゆ真琴と勝負よ!!」
「…雪歩、アンタまた胸大きくなったんじゃない?」
「え、勝負っていきなり何、真琴ちゃん?!唐突すぎるよ!!」
「ふえ?!そ…そんなこと無いよ…って、伊織ちゃんどこを触ってるの?!」
「ホラホラ、真琴。あまりはしゃぎすぎちゃダメだよ、ケガするよ?」
「いいなぁ、雪歩。また胸大きくなったんだ…。ボクなんて…」
「あ、真琴転んだ…」
「まぁまぁ、真。気にしない、気にしない。胸なんて無くてもアンタにはアンタの魅力があるんだから。」
「ハッハッハ、全く若い子たちは元気があっていいなぁ〜…」  
クルーザーに入って、伊織の叔父である水瀬邦晴さん(今日で55歳になられるみたい)と対面した。邦晴さんは身長が160cmちょっと、お腹の出た、人の良さそうなおじさん、という印象を受けた。  
邦晴さんが言うには、クルーザーの燃料補給をしておくために、しばらくは出発せず、それまでの間プールで遊んでいてよい、ということだったので、ボクたちは早速甲板のプールで思い思いに楽しんでいる、というところ。  
燃料は、クルーザーの運転手であり、“五角館”の管理人でもある黒木辰道さんが買いに行った。黒木さんは身長こそ150cmくらいの小柄な初老の方だけど、かなりの腕力の持ち主らしい。  
なので、今クルーザーにはボクらと邦晴さんがいるのみ(他の招待客たちはすでに島に到着しているみたい)。
 
この頃には、ボクたちはこれから行く“角島”でかつて起きたという事件のことはすっかり忘れてしまっていた…

〜あゆ〜  
黒木さんがクルーザーに燃料をつぎ込み、いよいよボクたちは“角島”へと向かって出発した。  
その道中、ボクは邦晴さんに聞きたいことがあったので会って尋ねてみた。
「ん、どうしたんだい、…君は月宮あゆ君、だったね?」
「はい。えっと、その邦晴さんに聞きたいことがありまして。」
「私にかい?」
「はい。まず、どうして邦晴さんは“角島”を買い取ったんですか?」
「……それは“中村青司”的な意味で、かい?」
「…そうです。何故、あのような事件のあった島を。さらには、“中村青司”の建築様式を模した建物まで…」  
邦晴さんは遠い眼をしながら、こう答えた。
「私が、建築関係の仕事をしていることは、名雪ちゃんに聞いたね?  
その過程で、出会ってしまったんだよ、私は。あの風変りな建築家“中村青司”に…
無論、彼に直接あったわけじゃない。彼は20年も前に亡くなった…。20年前と言えば、私が建築家としてデビューしたてのド新人だったよ。  
中村青司、当然名前くらいは聞いて知っていた。だが、当時は彼の建築に対する考えが理解できなかった。何故、意味の無い構造を造りたがるのか…」  
そこで邦晴さんは一旦言葉を切った。そして、こう続けた。
「しかし、実際に彼の建てた館を見て、衝撃を受けたのだ。それは“迷路館”と呼ばれる館だったか。本当に、そこへ行ったのは偶然だったのだ。たまたま、仕事で近くに寄ったついでに、何とはなしに行ってみようと思っただけだったのだ。  
まさに、運命的だったよ。
何かは分からない。だけど、確実に“何か”が私の中で生まれた。
それ以来、私は彼を追い続け、彼の建築様式を限りなく再現しようと努めてきた。
そして、ようやく、ここ“角島”で、完成したのだ…」

―――――ドクン!!
 
「それが、“五角館”、なんですね……?」
「そうだ。あれは、言うならば私が建てたものではなく、“中村青司”が私に建てさせたもの、と言っても過言では無いだろう。」
「……………」
「無論、一般の人々には分からないだろうし、いや一般の建築家にだって分からないだろうな。“中村青司”が建てた館と“中村青司”の建築様式を模して建てた館の違いは…」
「邦晴さんは、“五角館”は前者、だと言うんですね…?」
「……そうだよ。」

―――――ドクン!!
 
「さあ、そろそろ見えてくるぞ、“角島”が…」
ボクの胸の高鳴りは一層激しくなってきた。
これは、昨日の夜に感じた遠足の前の高揚感のようなものではない。
これは………
 
「あう〜…酔った〜…」
「もう真琴ちゃんってば、あれだけクルーザーの上で暴れてたら酔うのは当たり前だよ。」
「本当、よくもまああれだけの元気を蓄えていたわね…」
「…あ、私のお茶飲みますか?気分は落ち着くと思いますよ?」
「あう〜、ありがと〜、ゆきゆき〜…」
「えへへ、どういたしまして。」  
真琴ちゃんはクルーザーが動き出してからもテンションはMAXで、さすがの名雪さんでも面倒みきれないほどの暴れっぷりだった。で、何故か真琴ちゃんは雪歩ちゃんのことが気に入ったらしく、ずっと彼女を連れまわしていた(いつの間にか呼称もゆきゆきになってるし…)。  
一方名雪さんは、真琴ちゃんの相手を雪歩ちゃんに任せてからは伊織ちゃんと一緒にいた。しばらくぶりに会うはとこ同士、話もはずんだことだと思う。  

ボクは邦晴さんと別れたのち、もう一人の真ちゃん(なんだかややこしいな)に話しかけられてきた。
「ねえ、あゆさん!どうやったらボク、もっと女の子らしくなれると思いますか?!」
「うぐっ?!…な、なんでボクにその質問を?!」
「だって、このメンバーの中で恋人がいるのはあゆさんだけなんですよ!だから、あゆさんなら男の子の心を掴む、何か秘訣のようなものがあるのかなって。」
「えっと、ん〜…、ボクの場合は、その……  
いろいろと紆余曲折があったから〜…  
あ、あはははは………」
「何でもいいんですよぉ〜。ボクに女の子として足りないもの、それが知りたいんです!」
 かなり必死な表情で訴えてくる真ちゃん。  
そんなこと言われても、ボクだって果たして女の子らしいと言えるのかどうか…(未だに祐一君はボクを時々小学生の男の子扱いする時があるからなぁ〜…)
「真ちゃんは、今の真ちゃんのままでいいと思うよ?」
「え、どうして…?」
「ギャップ萌えだよ!」
「ギャップ萌え…?」
「そう、女の子なのに一人称が“ボク”!ボーイッシュな外見の奥に見え隠れする乙女な思い!これが、男の子のハートをわしずかみにするんだよ!!」  
ボクは思いっきり出鱈目なことを言ってみた(以前栞ちゃんがそんなことを言っていたような気がする。最近栞ちゃん、そっち系の世界に興味を持ち始めたみたいだからなぁ〜)。
「な…、なるほど…。それが、世の男の子たちを引き付けるコツ、なんですね…  
でも、今のボクには男の子のファンより女の子のファンからのファンレターのが多いんですよね…」
「それは、まだ真ちゃんが自分のかわいさに気づいていないからだよ。  
自分が自分のかわいさに気づかなきゃ、他の人だって、真ちゃんのかわいさに気づかないよ?」
「…自分のかわいさに気づく…。深い、言葉ですね…  
今はまだよく分からないけど、うん、なんだか自身が湧いてきたような気がします!!  
ありがとうございます、あゆさん!!」
 
と、そんな会話をしていた。  
けっこう思いついたまんましゃべっちゃったけど、本当にあれで良かったのかな?  
その後、律子さんがやってきてボクに
「真にいいアドバイスしてくれたみたいね。アナタ、なかなかプロデューサーの才能あるかもよ?どう、765プロの新人プロデューサーとして働いてみない?!」  
ボクは丁重にお断りしておいた。
 
そんなこんなで、ボクたちは“角島”に降り立った。
「ようこそ、“角島”へ!  
そして、あそこに見えるのが“五角館”です。」
 
―――――ドクン!!
―――――ドクン!!
 
より一層激しくなる鼓動…
「感じる……禍々しい、“何か”を………」
 
とうとうボクたちはやってきた、“青屋敷”“十角館”と続く惨劇の連鎖、そしてその鎖に連なる新たな惨劇の起こる館“五角館”へと…………