第三幕 五角館の殺人

問題編2

〜あゆ〜  
ボクたち、水瀬名雪さんと沢渡真琴ちゃんとボク・月宮あゆは新幹線のホームにいた。
「えっと、わたしたちが乗るのは1号車みたい。私のいとこが貸切ってくれたんだって。」
「新幹線の1号車を丸ごと貸切…?!さすがは“水瀬グループ”…」
「“きゅうしゅう”、“きゅうしゅう”♪ 楽しみだなぁ〜♪ あはは♪  
美汐たちも来られれば良かったのになぁ〜。」  
今回、名雪さんの紹介で九州は大分、“角島”に行けるのはボクたち3人と今はまだ来ていないけど川澄舞さんって人を含めた4人だけ。  
お友達の美坂栞ちゃんやそのお姉さんの美坂香里さん、真琴ちゃんの親友の天野美汐ちゃんも誘ってみたんだけど用事があるみたいでダメだった。ボクの恋人(えへ、なんだか照れちゃうよ)相沢祐一君も誘おうかと思ったけど、今をときめくアイドルの皆さんが数人一緒みたいで(名雪さんのいとこもアイドルだ)、なんとなく誘うのをためらった(祐一君はかなりのアイドル好きだから何か問題を起こさないとも限らないし…)。  
舞さんに関しては誘うまでもなく、彼女の親友・倉田佐祐理さんの代わりということで出席が決まっていたらしい。“倉田財閥”と“水瀬グループ”のつながりから、佐祐理さんにも名雪さんのいとこから招待状が届いたみたいなのだけど、当の佐祐理さんが来れない代わりに(以前起きた殺人事件の後処理なんかのせいだ)舞さんが来ることになったみたい。
「あ!あゆあゆ、舞さん来たみたいだよ!」
「え、本当だ!舞さ〜〜ん!こっちだよ〜〜〜!!」
「…おはよう、みんな。」  
ホームの階段を上ってきた舞さんは、いつものクールな表情でボクたちに挨拶をした。
「時間ぴったりですね。もうすぐ新幹線が来ますよ。」  
名雪さんが左腕にはめた腕時計(ケロピーが文字盤に描かれたキャラクターものだ)を見ながら言った。もうすぐボクたちは“角島”に向かうことになる、かの“惨劇”が起きた舞台へ…  
ボクは純粋な好奇心から、今日のこの日をすごく楽しみにしていた。  
…決して、“あんな事件”が起こることを、ボクは望んでなんかいなかったんだ……
 
「すっごーーい!!ねぇ、あゆあゆ〜!広いよ、すっごく広いよ!!貸切だよ〜〜!!」
真琴ちゃんのテンションがいつにも増して高い。ゴールデンウィークの時にも1回新幹線に乗ったが、あの時以上にテンションがハイだ(ま、無理もないよね、1号車丸々貸切なんだから)。
「も〜う、真琴ってばはしゃぎすぎだよ〜。最初から飛ばしちゃうと、最後までもたないよ?」
名雪さんがやんわりと真琴ちゃんをたしなめる。真琴ちゃんは名雪さんの言うことには大人しく従う。秋子さんに対してもだ。ボクや祐一君が何度言っても耳を貸さないようなことでも、この2人が言ったことに対しては逆らうことは無い。
…飼いならされてるのかな?
なんてね(笑)
 
とりあえず皆で思い思いの席に座ることにした。これだけ広いとどこに座ろうか迷っちゃうよ。  
ボクは窓際、道中富士山の見える側の真ん中あたりに座った。名雪さんはボクとは反対側の窓際の席で、隣に真琴ちゃんを座らせてパーティでの作法について教えている。すでに真琴ちゃんからは元気が失せていて、すごく眠そうだ(あ、名雪さんに叩かれてる)。
「ねぇ…」
と、突然ボクの後ろの席に座っていた舞さんがボクに話しかけてきた。
「舞さん、どうかしたんですか?」
「あゆは、やっぱり知っているんだよね、これから行く“角島”のこと…」
「舞さんも知ってたんですね。」  
“角島”のこと、それはとりもなおさず1980年代後半に起こった“殺人事件”のことを言っているんだろう。  

1985年、風変りな建築家“中村青司”によって“角島”に建てられていた“青屋敷”と呼ばれる建物が炎上した、その屋敷を建てた本人、中村青司を巻き込んで…  
その翌年1986年、やはり青司が“角島”に建てていた“十角館”を舞台に連続殺人事件が起こった。  
これだけなら、不幸な事故・事件がたまたま重なっただけと言えるのだけど、その後も、この中村青司の建てた館を舞台に殺人事件が連続して起こったのだ。  
彼の建てた館のことごとくで事件が起こる…  
これは異常なことだ。  
全ての事件は全く別個のものとして解決しているものの、やはりそこには中村青司という建築家の“何か”が存在しているのではないかと疑ってしまいたくなる。  
最初に“風変りな”と説明したけど、これは別に青司の性癖がおかしかったとかそういう意味ではなく、彼の建物に対する一種異様なこだわりがあったことによる。それは、彼の建物には、なにがしかの“仕掛け”が施されているということだ。隠し通路だったり、隠し扉だったり、とにかく変った“仕掛け”を、館の建設を依頼した人物の意思如何を問わず、時には主に黙ってそういった“仕掛け”を施す場合もあったという。  

そんな中村青司と深い関係のある“角島”に行ける、そう考えただけでボクの知的好奇心はくすぐられ、今日この日まで夜も眠れなかったくらい!
「…どう思う?」  
おっと、一瞬青司のことを考えていたせいで舞さんと会話中だったってことを忘れちゃってた!
「それは…、今回のパーティで何かの事件が起こるかもしれない、ってこと?」  
舞さんは無言で頷く。
「まさか、そんなことは無いよ。頻繁に事件に巻き込まれるのは物語の中の名探偵だけで、ボクたちみたいな普通の人はそうそう事件と遭遇するなんてことはありえないよ。」  
ボクは全くの正論を言う。
「それは分かってる。でも、何だか今回も嫌な予感がする…  
佐祐理の事件の直前にも感じた、あの嫌な予感が…」  
舞さんには、他の人が持っていない“特殊な力”があるって祐一君から聞いたことがある(それが原因で大変なことがあったとも聞いている)。  
それがどんな力なのか、ボクには分からないけれど、この時から舞さんは“何か”を感じていたんじゃないかと思う。  
風変りな建築家、中村青司の“何か”を…

〜真〜  
「ふ〜ん、じゃあその伊織の叔父さんの建てた“五角館”ってのは建築家“中村青司”って人の建築様式を真似したもの、ってことなんだね?」
「ちょ…ちょっと伊織ちゃん、今日これから行く場所がそんな場所だなんて、私聞いてないよぉ〜…」
「だって言っちゃったら雪歩、アンタは絶対来ないでしょう?」
「あはは、大丈夫だって雪歩。確かに建築家・中村青司の建てた館ではいろんな怪事件が起こっているし、実際“角島”でも事件は起こったわ。でも、それこそもう20年も前の話よ。」  
ここは駅の新幹線のホーム。ボク、菊地真とボクの腕にしがみついて震えているショートヘアのかわいい女の子・萩原雪歩(ボクも雪歩みたいにかわいくなりたいなぁ〜)、左腕にウサギのぬいぐるみをつけたリボンの似合う女の子・水瀬伊織(顔はかわいいのに、あの性格さえ良ければ…)、青のストライプの入った、どっかのコンビニ服にそっくりな服を着たメガネの女の子・秋月律子(本人にそのことを言うと怒られる)の4人は、自分で言うのもなんだけど今をときめく765プロ所属の現役アイドルです!ただ、厳密に言うと律子は引退宣言をしていて、今ではボクと雪歩のユニット“True Snow”(ボクの名前の真=Trueと雪歩の名前の雪=Snowからとった名前で、律子のプロデューサーにしてボクたちを765プロにスカウトした“超売れっ子プロデューサー”ヨウイチPにつけてもらった大事な名前なんだ、へへ〜♪)と伊織のソロユニットをプロデュースしてる“新米プロデューサー”なんだけど、時々テレビ出演とかもしている。律子引退後も、未だに根強いファンは多いみたい(かく言うボクや雪歩も律子に憧れている)。
 
ところで、どうしてボクらが新幹線のホームにいるのかと言うと、九州は大分にいる伊織の叔父さんの誕生日パーティに(半ば強引に)誘われたからだ。伊織は大企業団体“水瀬グループ”の家に生まれた、いわゆるお嬢様で、その叔父さんである水瀬邦晴さんは建築家関係の仕事をしているらしく、大分にあった“角島”と言う無人島を買い取り、そこに“五角館”という変わった別荘を建てて、誕生日などの祝い事の度にそこで集まってパーティを開いてるらしい。
で、今問題になっている話題は、この“角島”で20年くらい前に殺人事件が起こっていたということ、その事件の舞台となった“十角館”を建てた建築家である中村青司っていう人のこと、その人の建てた他の館で起こった事件のこと、そしてその“呪われた”とでも言うべき中村青司に憧れた伊織の叔父さんが建てた“五角館”のこと…
「でも、だってその島呪われてたりしないかなぁ〜…。だって中村青司って人はその島で死んだんでしょ?何か事件が起こったりしたら…」
雪歩がボクの腕をさらに強く握りしめる。
「大丈夫だよ雪歩、仮に事件が起こったとしても、君はボクが守ってあげるよ!」
ボクは雪歩を励ますつもりでウィンクした。雪歩は赤くなってありがとうとつぶやいた。…本当を言うと、ボクだって怖い。幽霊とか呪とか言うのは苦手だ。雪歩を怖がらせたくなくて、強気のふりをしているだけ。
…こういうところが男の子っぽいって言われちゃうのかなぁ〜…。
「それに、本当に呪われてるなら、もうとっくに事件は起こってるはずよ!私なんてここ数年“角島”に行ってるけど、何の事件も起こってないわよ。」
「そうよ、雪歩。呪だなんて非科学的よ。まあ、確かに青司の建てた館で立て続けに事件が起こった、ってのは不思議なことではあるけど、たまたま事件の起こったのが彼の建てた館だった、ってだけの話なんだから。  
…っと、新幹線が来たみたいね。伊織、あの新幹線で間違いないのね?」  
律子の言うとおり、ホームに“博多行き”と書かれた新幹線が入ってきた。
「ええ、あの新幹線の1号車が私たちの貸し切った車両よ。ホラ、ドアに貸切って書いてあるでしょ?もうすでに私のはとこの名雪たちは乗り込んでるハズだから。」
「伊織のはとこか〜…。さてさて、果たしてどんな感じの子なのか…」
「あ〜、想像するだけでうるさくなってきちゃったよ…」
「アンタたち、一体どんな想像してるのよ?!」
「まさにそんな感じの子が2人いる様子よ。」
「言っておくけど、名雪は私とは違って天然で、人を疑うってことを知らないような子なんだからね!あんまり変なこと吹き込まないでよ?!」
「あ、新幹線の扉開きましたよ。」  
そうしてボクたちは新幹線に乗り込んだ。  
これからボクたちは向かうことになる、多くの“死”を知っている島が、今また新たな“死”を求めて手をこまねいている、その中へ…
 
「伊織ちゃ〜ん、久し振りだねぇ〜。元気してた?」  
伊織が貸し切ったという1号車へと入っていくと、黒髪ロングの女性が早速出迎えてくれた。伊織のことを名前で呼んでいることから考えるとこの人は…
「あ、アナタが伊織のはとこの方の水瀬名雪さんですね?私が伊織の担当プロデューサーの…」
「秋月律子さんですよね。わたし、あまりアイドルの方とか詳しくいんですけど、律子さんのことは伊織ちゃんから聞いてよく知ってますよ。」
「ちょ、ちょっと名雪、あんま変なこと言わないでよね?!」  
そこで伊織が頬を赤らめて名雪を引っ張って行こうとしている。どうも、あまりその先の話をされたくないみたいだけど…
「ちなみに、私に関してどういうことを聞いてます?」  
やはり律子も気になったみたいで、名雪さん(後で聞いたことだけど、律子とは同学年に当たるみたい。)を引っ張って行こうとする伊織を後ろから抱え込んで口を塞いでいる。
「え〜っとお〜…、普段はピリピリしていて怒ると怖いんだけど、根はすごく優しい人だって!」
「そ、そそっ、そんなこと私、ひとっっことも言ってなっ…」  
真っ赤になって否定する伊織。一方で、まんざらでもない表情の律子。伊織って、天の邪鬼な性格してるから、思っていることと口にすることがまるっきり正反対なんだよなぁ〜(今風に言うと、ツンデレって言うんだっけ?)。
 
「えっと、君たちがあの有名な“True Snow”の真さんと雪歩さんですか?」
と、伊織らの会話に気を取られていて、他の人たちがいたのを忘れてた!
「うん、そうだよ。ボクが菊地真で、ボクの隣にいる彼女が…」
「は…、萩原雪歩です。えっと、よろしくお願いします…」
「うん、よろしくね!ボクは月宮あゆだよ。ボクのことはあゆって呼んでね。」  
そう言って左手を差し出すあゆさん(背はボクよりも小さくて幼い顔立ちだったから、てっきり中学生くらいだと思っていたんだけど、後でボクらよりも年上だって知ってびっくり!)。
「あ、えっと…」
ボクが戸惑った表情をしたのを見て、
「あ、ゴメン。ボク左利きだからつい…」  
そう言って、引っ込めた左手で頭をかきながら改めて右手を差し出すあゆさん。ボクがまず握手をして、その後に雪歩がおずおずと握手を交わした(相変わらず雪歩ってば人見知り激しいなぁ〜)。  
あゆさんと雪歩が挨拶をしている時に、ふとあゆさんが雪歩の顔をじっとのぞきこみ、こんなことを言った。
「ん〜、雪歩さんとは初めて会うはずなんだけど、何故だか初めて会ったような気がしないよ…」
「え…、そ、そうですか…?」
「それは、普段からボクたちのことをテレビとかでよく見てるから、っていう意味ですか?」
「う〜ん、確かに君たちの出てるテレビやCDは毎回欠かさずチェックしてるけど、そういうのじゃなくて、なんだか他人のような気がしないというか、なんというか…」
 ボクの恋人がアイドル好きでね、真ちゃんたちのことも彼から聞いたんだ、って付け加えたあゆさんの表情はすごく幸せそうな顔をしていた。  
彼氏か〜…。ボクもいつかは白馬の王子さまに…。ってどうしてそこでヨウイチプロデューサーの顔が浮かぶんだ?!わあああああああああっ、は…恥ずかしい!!真っ赤になったボクの顔を見て、雪歩が心配そうな顔をしていたので、慌ててボクは何でもないということを伝えた。  
その後もあゆさんは一人うんうん言いながら頭を悩ませていた。…他人のような気がしない、って一体どういうことなんだろうなぁ〜…
 
それから、さん付けはなんだか落ち着かないからボクのことは呼び捨てでいいですよ、って言ったら、
「分かった、じゃあ真ちゃん、雪歩ちゃん、でいいかな?」 とそう言われたので、それでいいですよ、と言っておいた。
「えっとね、それで真ちゃん。実は、こっちにも同じ“まこと”ちゃんがいるんだけど、ちょっと今ははしゃぎすぎちゃって寝ちゃってるんだ。だから後でまた改めて紹介するね。」
「え、ボクと同じ名前ですか?!」
「えっと、正確には真ちゃんの“真”に、楽器の“琴”って書いて真琴って名前なんだけどね。」
「それで真琴…。あ、あそこで寝ている茶色がかった髪の、あの子が…?」
「うん、彼女が沢渡真琴ちゃん。」  
真琴ちゃん(ん〜、字が違うとはいえ自分と同じ名前の子を呼ぶのってなんだか慣れないな)はそれは気持よさそうな顔で眠っていた。なんて言うか、すごくかわいい箱入り娘という印象を受けた。…後で彼女が伊織と同じような性格の子だって知った時には、驚いたけど何故だか納得してしまった(笑)

「あれ、そう言えばもう一人いるんじゃなかったかしら?佐祐理の代わりに出席するっていう子が…」
そこに、ようやく解放されたらしい伊織と、すっかり意気投合した名雪さんと律子がやってきた。
「あ、舞さんは今お手洗いに行っていて…」  
とりあえずあゆさんと律子ら、ボクらと名雪さんの自己紹介を済ませることになり、それが終わった頃合いでその舞さんと思しき女性が1号車に入ってきた。
「うわ、すっごい美人…」  
雪歩と同じく、ボクも思わず見とれてしまっていた。その女性はスラっと背が高く、プロポーションもこれ以上ないくらい整っていて、黒い超ロングな髪もすごく綺麗で彼女によく似あっていたし、顔立ちも女性がドキっとしてしまうくらいの美人だった。そのどことなくクールな印象は、同じ765プロの千早を思い出させた。
「貴女が倉田佐祐理の友人の方の川澄舞さんですね、佐祐理さんにはお世話になっていますわ、私が水瀬伊織です。どうぞよろしくお願いいたしますわ。」
(うわ、伊織って丁寧語しゃべれたんだ!)
(…私も、あの子の猫かぶりっぷりにはいつも驚かされてるわ)
(なんだか聞いてるこっちがこそばゆくなってきます…)
「…よろしく。」  
舞さんは一言だけ言うと、スッと右手を伊織に差し出した。それを握り返す伊織。  
…と、先ほどのあゆさんと雪歩の時のように、舞さんがふと伊織の顔をじっとのぞき見るような表情をした。
「…えっと、何か顔についていますでしょうか?」
「…別に、そういうのじゃない…。ただ、貴方のことは何故だか他人のような気がしなくて…」  
伊織は何の事だか分からない、という表情をしていた。  
あゆさんにしても舞さんにしても、一体どうしたと言うんだろう?  
……ふと、“中の人”という神様の声が聞こえたような気がしたけど、きっと気のせいだろうな。
 
さて、こうしてボクらはお互いに自己紹介をし、これから九州に向かう友達同士として、道中いろいろな話やゲームをして楽しんだ(その途中で真琴ちゃんも起きてきて自己紹介を済ませた。彼女はボクが同じ“まこと”だという名前だってことを知って少し混乱していたみたい)。  

そうこうしている内に、新幹線は博多駅につき、そこから普通列車に乗り換えて、大分へと向かい、目的の島のあるS半島J崎へと着いた。  
この時までボクたちは、誰もが楽しい旅行になるハズだと、信じていたんだ。  
でも、運命の神様は、ボクたちに残酷だった…

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