第三幕 五角館の殺人

エピローグ

〜あゆ〜

 動機に関して、黒木さんは何も話してくれなかった。
 色々と2人の間であったのだと思う。
 ボクらが聞いたところで、黒木さんに対して何かが出来るわけでもなく、また犯した罪が消えることもない。
 だから、黒木さんが何故犯行に及んだのかは、ボクらが調べるべき問題でもないし、知る必要のない問題だ…


「中村青司、か…」
 帰りの船の中で、伊織ちゃんが呟いた。
 翌日になって海も落ち着き、ようやく警察の船が到着。現場検証があるため、ボクらは一旦本土へと戻ることになった。
 伊織ちゃんや名雪さんは叔父さんが殺されたわけだから、今後色々とあるみたいでしばらく大分の水瀬グループ系列の宿泊施設に家族と一緒に残ることになるみたい。ボクと真琴ちゃんと舞さん、それに765プロの真ちゃんと雪歩ちゃんと律子さんはそのまま本州へと帰ることになってる。ボクと真琴ちゃんは秋子さんの家に居候の身だから、本当は残った方がよかったんだろうけど、水瀬家内の問題で色々とあるから、という理由で帰ることになったのだ。
「伊織ちゃんどうしたの?」
 名雪さんが伊織ちゃんに話しかける。
「ん、別に…。ただ、呪いって本当にあるのかな〜って思っただけ。」
「中村青司の館で次々起こる殺人事件、ね…」
  律子さんが続ける。
「でも、今回は中村青司の館、ではないわ。確かに、その影響を受けた館ではあったけども。」
「それでも、殺人事件が起こった、わけですよね…?」
 雪歩ちゃんが会話に加わる。
「しかも、以前中村青司の建てた館“十角館”のあった“角島”で。」
「真まで…。偶然よ、偶然。この世界に呪いなんてあるわけないわ。」
「ボクだって呪いなんて信じたくないけど、でもなんだか、ね…」
 

ボクは、邦晴さんが言っていたことを思い出していた。

 「私が、建築関係の仕事をしていることは、名雪ちゃんに聞いたね?
 その過程で、出会ってしまったんだよ、私は。あの風変りな建築家“中村青司”に…
無論、彼に直接あったわけじゃない。彼は20年も前に亡くなった…。20年前と言えば、私が建築家としてデビューしたてのド新人だったよ。
 中村青司、当然名前くらいは聞いて知っていた。だが、当時は彼の建築に対する考えが理解できなかった。何故、意味の無い構造を造りたがるのか…」
 
「しかし、実際に彼の建てた館を見て、衝撃を受けたのだ。それは“迷路館”と呼ばれる館だったか。本当に、そこへ行ったのは偶然だったのだ。たまたま、仕事で近くに寄ったついでに、何とはなしに行ってみようと思っただけだったのだ。
 まさに、運命的だったよ。
何かは分からない。だけど、確実に“何か”が私の中で生まれた。
それ以来、私は彼を追い続け、彼の建築様式を限りなく再現しようと努めてきた。
そして、ようやく、ここ“角島”で、完成したのだ…」

 「そうだ。あれは、言うならば私が建てたものではなく、“中村青司”が私に建てさせたもの、と言っても過言では無いだろう。」

「無論、一般の人々には分からないだろうし、いや一般の建築家にだって分からないだろうな。“中村青司”が建てた館と“中村青司”の建築様式を模して建てた館の違いは…」
「邦晴さんは、“五角館”は前者、だと言うんですね…?」
「……そうだよ。」


 “五角館”は…
 あの館の本当の建築者は……


「…あゆ、どうかした?」
 去りゆく“角島”を眺めながら考え事をしていたボクの隣に、気付いたら舞さんが立っていた。
「えっと、ちょっと考え事を、ね。」
「…中村青司のこと?」
「…うん。」
「……“あれ”は、本来アナタが相手をするべきではない存在。…今回はイレギュラーだったと思われる。」
「イレギュラー……」
 気づいたら、ボクと舞さんの周りに名雪さん、伊織ちゃん、律子さん、雪歩ちゃん、真ちゃんも集まってきていた。
「…もう、あゆが“アレ”と関わることはない。」
「舞さん、その……“アレ”って……」
 ボクがそれ以上を聞こうとしたら、

 「あう〜…酔った〜…」

「「「………」」」
 どうやら、行きと同様真琴ちゃんはまたも船酔いしたらしい……
「ちょっと真琴、大丈夫?」
「あぅ〜、なゆなゆ〜、きぼぢわ゛る゛……う゛ッ!!」
「あ〜、あ〜、真琴さん!海の方に顔を向けて!」
「律子さん、真琴ちゃんの背中をさすっていてあげてください、私は水を貰ってきます!」
「あ〜、またあの子…」
「真琴ちゃん、大丈夫、かな…?」
「あはは、なんていうか、真琴ちゃんは本当に相変わらずだね。」
「うぐぅ、身内としては恥ずかしいよ!」
「……はちみつくまさん。」
「あぅ〜!真琴、船は嫌い!もう2度と乗ってやらな……う゛ッ!!」
「ほらほら、落ち着いて!出すもん出しちゃいなさい!」
 結局、その流れでボクは舞さんに聞きそびれちゃった。
 …でも、それでいいんだと思う。
 きっと、今後2度と“彼”と関わることは無いのだろうから……



〜真〜

 「じゃあ、またいつか会いましょう!」
「うん、また会えるといいね!」
「えっと、あゆさん、私、きっとメールしますね…!」
「うん、ボクもメールするよ!」
「真琴も真琴も!」
「ところであゆさん、765プロに来る件、本気で考えてくださいね!ウチの事務所、あの社長にあの事務員にあのプロデューサーだけじゃ今後が心配で心配で…。あゆさんほどの洞察力のある人なら……」
「あ、あはは、まぁ、考えておくよ…」
「…あゆ、就職先が決まったみたいで何より。」
「うぐぅ!?」
 本土についてから、伊織と名雪さんは大分に残った以外は本州へと帰り、しばらく新幹線の旅を続けていたのだが、いよいよお別れの時となっていた。
「でも、アイドルのメルアドゲットした〜なんて言ったら、祐一君すっごく羨ましがるんだろうな〜!」
「…祐一はあなた達の大ファンだったから。」
「こないだなんてファン代表ぷろでゅーさーに選ばれたーとか何とか言ってはしゃぎまくってたもんね〜」
「あ、でもあんまり人には言いふらさないで下さいよ?」
「大丈夫だよ!ボク絶対祐一君には教えないもん!」
「…祐一に教えると大変な騒ぎになる。」
「北川って人と一緒になって真たちをすとーきんぐするくらいはやるかもね!」
 …どんな人たちなんだろう。っていうか、そんな人がファン代表プロデューサーって、大丈夫なのかな……?
 そんな話をしていたら、もうあと数分もすれば新幹線がホームに着くところまでやってきた。ボクらはここで降りるけど、あゆさんたちはさらに北へ帰ることになる。
「あ、今度会うときには栞ちゃんや香里さんも紹介するね!」
「…佐祐理のことも。」
「真琴は美汐とピロを紹介するねー!」
「うん、その時はボクらも他の765プロのメンバーを紹介するよ!」
「ふふ、楽しみです。」
「まあ、本当はあんまりアイドルと一般の人がホイホイ会うのは問題があるんだけど…」
「ちょっと律子、それは…」
「…まあ、私たちはもう“友達同士”ですから。友達の友達を紹介するくらいなら、問題ないでしょう!」
「律子さん…」
「へへ、そうこなくっちゃ!」
「「「それじゃあ、」」」
「「「うん、」」」
 新幹線がホームに入る。
 これでボクらの今回の旅は終わりだ。
 だけど……

「「「「「「また、いつか!」」」」」」

 きっと、またいつかあゆさんたちとは巡り合える。
 何故だか、そんな気がした。