第一幕 殺意の日本刀

解答編

その後救急車がやって来て、慎造は病院に運ばれていった。春代は付き添いとして救急車に乗っていった。その後、警察も到着し、現場検証が行われた。残った一、海人、洋香は母屋で事情聴取を受けていた。あゆと真琴はその間、現場付近をうろうろしていた。どうも、あゆは何かを探しているらしい。
「ねー、あゆあゆ、こんなところ探しても天使の人形は見つからないよ〜。」
「分かってるよ!っていうかボク、もう持ってるし・・・。そうじゃなくてボクが探しているのは・・・。」
「コラ、お前達、こんなところで何をしている!?」
そこに現場を見張っていた刑事がやって来た。
「あ、刑事さん。この辺りに日本刀が無かった?」
と、悪びれもせずにあゆはその刑事に尋ねた。
「はあ、日本刀って例の盗まれたやつか?こんなところにあるわけがないだろう!?」
と、その刑事はさもそれが当然であるかのように告げた。なおもその刑事が何か言葉をつなごうとしたところへあゆは
「じゃあ、刑事さんたちは今回の事件をどう見てるの?」
と、さらに質問を重ねた。
「ん・・・、それは、強盗が・・・。」
「じゃあ、強盗さんは何処からやって来たの?この道場に入ることは愚か、屋敷にだって入れないんじゃないの?」
「だから、それらのことは今後の調べで・・・」
「倉庫を調べてみてください。」
「は!?」
あゆの言った一言に刑事は思わず顔をしかめる。
「きっと、そこにあると思いますよ。」
「何が倉庫の中にあるっていうんだ!?」
「盗まれたはずの日本刀、かな?」

 

その後、あゆと真琴は母屋に強制的に入れられ、洋香たちとは入れ替わりに事情聴取を受けることになった。そこへ、先ほどの刑事が現れ、倉庫から盗まれた日本刀が見つかったという。
「わっ、あゆあゆの言った通りだ。」
「何、君の言った通りだって?」
と見るからにヤクザだろう、という顔をした警部があゆを睨みつけた。
「はい、その少女が倉庫に日本刀がある、というので調べてみたのです。その発見された日本刀には血も付着していたため、盗まれた日本刀で間違いないかと。今、ご家族の方に確認してもらってます。」
「ほ〜う、よく知っていたな〜、そんなところに日本刀があるなんてこと・・・。」
「うん、推理すれば簡単なことだよ。」
と、あゆ。隣で真琴はさも自分が日本刀のありかを見つけたかのような顔をして、腕を組んでうんうん唸っている。
「そうか、推理・・・ね。」
その警部はあゆと真琴の顔を交互に見た後、おもむろに口を開いた。
「よし、こいつらが犯人だ。ひっ捕らえよ。」
「うぐぅ〜〜〜〜〜〜!!!!!」
「あう〜〜〜〜〜〜!!!!!」
こうして、二人はあっさりとお縄になり、事件は解決
「してないよ!!どうしてボクらが犯人になるの!?」
「日本刀のありかを知っていたし、何より外部犯の可能性が薄い以上、内部の者が犯人であると考えられる。そうした上で一番怪しいのは部外者である君らだろう?君達が共犯ならば、全てつじつま合う。
まず、二人して慎造老人に会いに行き、隙を見て日本刀を奪い、切りつけた。そして、肩車をして片方がまず脱出。そしてもう一人は上から日本刀で引っ張り上げて脱出した・・・。」
「あう〜〜、真琴そんなことしてないよ〜〜。」
と、真琴は今にも泣きそうな顔をしている。しかし、一方のあゆは涼しい顔をしている。そして、何かに気づいたような顔になり、突然机に突っ伏して泣き始めた。
「うぐぅ〜〜、ごめんなさ〜〜い。全て真琴ちゃんにやれって言われて〜〜!!」
「え〜〜〜!!??ちょっ・・・、あゆあゆ私を裏切るの〜〜!?真琴何もしてないよ〜〜!!本当だよ!信じてよ刑事さん!!」
「聞いたところによると、君達は食い逃げの常習犯だそうじゃないか?」
「あう〜〜!?そ、そ、それはあゆあゆだけじゃない!?真琴は食い逃げなんて一回も・・・。っていうか、それとこれとどーいう関係があるのよー!?」
「食い逃げが高じて、とうとう強盗にまで・・・。」
「だから、違う〜〜!!真琴じゃないよーー!!」
今にも泣きそうな真琴の様子を見て、あゆはとうとう
「あははははははは!!!!ごめんね、真琴ちゃん、冗談だよ。」
と目から涙を流しながら大笑いをしだした。それにつられて、警部も失笑している。
「いや〜、譲ちゃん、あゆっていったかい?なかなか上手いじゃないか。」
「あははは、それをいうなら警部さんだって、嘘の推理をさも真実みたいに語ってる様子なんて迫真でしたよ。」
「???」
一人、真琴だけはその様子についていけてなかった。頭の上にひたすらクエスチョンマークを浮かばせていた。
「あのね、真琴ちゃん、ボク達にはアリバイがあるんだよ。だから、ボク達に犯行は無理なんだよ。」
「ほえ、そうなの?」
と、真琴は泣きそうな目であゆを見つめた。
「確かにあゆ、お前さんにはアリバイはあるが、真琴のアリバイはどうかな?朝食をとってからのアリバイはないぜ。あんたと洋香さんと合流するまでの時間はフリーだ。その間に犯行を行ったのかもしれねー。脱出時はなんらかのトリックを要して・・・。」
「あ・・・。あう〜〜〜・・・。」
「でも、慎造おじいさんは剣の達人だよ。そんな人が、いくら油断していたとはいえ素人の真琴ちゃんに後ろから切られると思う?警部さんもそう考えてるんでしょ?」
「おう、まーな。」
と、警部はあっさりとあゆの反論を肯定した。
「何、お前さんがどの辺まで気づいているのか確認したくてな。」
「あう〜〜〜、警部さんひどいよ〜〜!!」
と、真琴は腕を振り回して抗議する。
「はは、すまんな。で、あゆの譲ちゃん、あんたの様子だと、全て分かってるみたいだな。どうだい、話してみないか、知ってることを。こちらとしては正直なところまだ、密室にした方法も犯人も分かっていない。いや、犯人の見当はついているといえなくもない。そこで、君の意見を参考にしたいんだが。」
「いいですよ。でも、話すには条件があります。この事件、まだ公にはなってませんよね?」
「ああ。まだ、発表はされてないよ。」
「だったら・・・。」

 

その日の夕方になると、警察は引き上げていった。慎造の意識は未だに戻らず、春代もまだ病院に残っている。  
夕食の準備は洋香とあゆ、真琴が行った。だが、ほとんどの料理は当然洋香が作った。あゆが作る料理は全て「カーボン化」するためである。当然、真琴に至っては問題外である。したがって、彼女らのした仕事は食器並べや、野菜を洗ったことくらいである。  
夕食の席では、誰もが口を開かなかった。静かなまま皆食事を終えたが、食後誰も席を立つことは無かった。皆、病院からの電話を待っているのだった。
「ねえあゆちゃん、そろそろ話してくれる?一体誰がどうやっておじいちゃんを刺したの?」
と、沈黙に耐え切れなくなったのか、洋香が切り出した。そのセリフに一と海人は、はじかれたようにあゆの方を見た。
「さっき、犯人は私達の中にいる、みたいなことを言ってたわよね?でも警察は外部犯の線で捜査をしてるって聞いたわ。その辺りはどうなの、名探偵さん?」
自分達が一度でも疑われたことが気に食わないのか、洋香は少し棘のある言い方をした。
「うん、言ったよ。そうだね、それじゃあ、ボクの推理、話そうか。」
そう言うと、あゆは立ち上がり、腕を後ろに組み、あまたの名探偵よろしく、その場を歩き回り始めた。
「まず、今回の犯人が内部犯じゃないか、と考える理由。
まず第一に、このお屋敷に入るには門からしか入れないということ。当然、門には鍵がかかっていたんだから、犯人の侵入は不可能だよ。ただ、門に梯子をかけて登り、内部に侵入した、という考えは否定できないけどね。
第二に、道場にも鍵がかかっていて入れないということ。まあ、これもピッキングしたんだろう、と言われるとそれまでだけどね。
第三に、なぜ犯人は早朝に忍び込んだのか。ここが圧倒的に不自然なんだよ。警察の考えでは、日本刀を盗んでいた犯人がおじいさんと鉢合わせして切りつけた、ということらしいけど、深夜の内に忍び込んでたらこんなことにはならなかったんだよ。
第四に、盗まれた日本刀が倉庫の中にあったということ。せっかく苦労して盗んだものを置いていくなんてありえないよ。  
こういったことから、ボクは犯人が内部犯じゃないかと推理したんだよ。」
「で、犯人は誰なんだい?それから、どうやって、密室の道場から脱出したのかな?君はもう分かってるんだよね?だったらもったいぶらずに教えてくれないかい?」 と、海人が挑むような目つきであゆを見る。
「まず、発端はおじいさんが犯人を道場に呼んだことだと思う。そこで犯人と口論になり、犯人は思わず日本刀を手に取り、争った末におじいさんを切ってしまった。そして逃げようとした時に思わぬことが起こってしまった。」
「思わぬことって?」
真琴が聞く。
「ボク達が来たんだよ。それで、犯人は入り口から出るに出られなくなってしまったんだよ。そこで犯人は窓から脱出することにした。」
「窓から!?でも一体どうやって!?あの窓、地上から3メートルの位置にあるんだよ!」
と、洋香が思わず身を乗り出して叫ぶ。
「ここにトリックがあるんだよ。まあ、ともかく、窓から脱出した犯人はボク達と合流した。離れから来た、と偽ってね。」
そこであゆは鋭い視線を、ある人物に向けた。
「それって、じゃあ犯人は・・・、イチニイなの・・・?」
全員の視線が一に集まる。彼は一瞬狼狽したかのように見えたが、一つため息をつくと、
「はっ、俺が犯人か。まあ、いいけど、それじゃあどうやって俺はあの道場から脱出したんだい?いくら俺でもジャンプしたくらいじゃあ、届かないぜ。」
「今回のトリック、類似例としては、西尾維新さんの『クビキリサイクル』なんかがあげられるかな。使っている<道具>は違うけど、ほぼ同じ密室トリックだね。割と単純なことなんだよ。」
「あゆあゆ、いつそんな小説読んだの?」
という真琴のつっこみを無視し、あゆは続ける。
「トリックのカギはずばり、日本刀だよ!」
「「「日本刀!?」」」
一とあゆ以外の3人が同時に声を上げた。一の額には汗が滲んでいる。
「そう、日本刀だよ。あの日本刀のつばの周囲には穴が開いていたでしょ。あそこから糸を通しておいて準備は完了。あとは、日本刀を床に立てて、つばに足をかけてジャンプするだけ。日本刀は1.5メートル、そして一さんの身長と合わせると、3メートルくらいわけないでしょ?」
「あーー、それ真琴、忍者の漫画で読んだことあるよーー!!」
「そう。これ、忍者が壁を乗り越える時なんかに使う技なんだよ。ここの道場では修業として、お弟子さん達がこの技で窓の開閉をしているんだよね。で、窓に乗った一さんは、つばから通しておいた糸を手繰り、日本刀を回収。一旦茂みに隠しておいてから、ボク達と会い、斧を持ってくると同時に、隠しておいた日本刀を倉庫に隠しに行った。こうして密室ができあがった。  
日本刀を隠したのは強盗にみせかけるため。倉庫に隠したのは普通警察はそんなところまで調べるはずが無く、安全な場所だから。  
このトリックは、太っている春代さんや、足を骨折している海人さんにはまず無理。さらに言うなら、慎造おじいさんを後ろから切り裂けるほどの実力を持った人は、道場を継ぐことになっている一さんしかいないんだよ。」  
あゆの説明が終わったところで、再び全員の視線が一に集まった。一は全員の視線を受け、一つため息をつくと、語り始めた。
「あんたの言った通りだよ。俺がじいさんを刺した。」
「どうしてイチニイが・・・?」
と、洋香が尋ねる。
「あー、うん、実はな俺道場継ぐ気は無いってじいさんに言ったんだよ。俺は小説家になりたかったんだ。」
「え!?そうなの!?」
驚く洋香。
「あー。そのことでじいさんとちょっともめててな・・・。今朝もそのことで話があるって、じいさんに呼び出されたんだよ。  
そこで、俺はじいさんに、『お前にモノを書く才能は無い!!じゃからここを継ぐ以外、お前に選択肢は無い!!この道場を継ぐ気が無いのならお前さんとは勘当じゃ。どこへでも行ってしまえ!!』って言われてな。『才能がない』ってのにカチンときて、思わず、な。確かに才能がないかもしれない。だけど、それでも俺は小説家という職業につきたかったんだ。何年かかってでも、腕を磨いて、いつかはって・・・。だけど、これでもう終わりかな・・・。俺は犯罪者だしな・・・。」
一が話し終えても、誰も口を開かなかった。皆、一様に目を伏せ、黙り込んでいた。一人、あゆだけは、じっと電話の方を見ていた。  
と、その静寂を破るかのように電話が鳴った。皆が驚いて電話の方を向いたのに対し、あゆは「やっとか」という表情で静かに目をつむった。慌てて洋香は電話の元へと駆け寄り、受話器を取った。
「はい、もしもし。・・・あ、お母さん・・・、え・・・、おじいちゃんが目を覚ました!?」
その声に、皆から安堵の声が漏れると同時に、
「そうか、これで君の推理と、じいさんの証言とで、俺が犯人だと告発されるわけだ。」
と、一はあゆの方を見ながら言った。その表情からは悔しさを読み取ることはできなかった。
「はい、・・・えっ!?おじいちゃんがそんなことを・・・!?だって・・・さっき・・・。」
受話器から顔を離し、洋香はちらと皆の方に向き直り、こう告げた。
「おじちゃん、自分は強盗に襲われたんだって、証言したって・・・。」
「「「えっ!?」」」
この言葉に、皆は一声に驚きの声を挙げた。一人、あゆを除いては・・・。  
洋香は再び受話器に耳をつけて、会話を続けた。
「え、おじいちゃんが電話に出るって!?・・・イチニイに替われ、ですって?でも、いいの、おじいちゃん、もう電話に出られるの?・・・うん、分かった。イチニイ、おじいちゃんから・・・。」
そう言って、洋香は一に受話器を渡した。一は驚きの表情を浮かべたまま、受話器を受け取り、電話に出た。
「もしもし・・・。」
「一か。お前さんは勘当じゃ・・・。」
「・・・・」
「もう、どこへでも行け!そこで何をしようがワシの知ったことではない!!小説を書こうが、ワシには関係ない!!」
「・・・えっ・・・、それってどういう・・・?」
「・・・分からん奴じゃな・・・。お前はもう道場を継がんでよい、ということじゃ。」
「でも、俺、じいさんを・・・。」
「あ?ワシは賊に襲われたんじゃ。いやー、恥ずかしながら瞑想中に眠ってしまっての〜、目を覚ましたら賊が日本刀を持って逃げようとしていてな、捕らえようとしたら返り討ちにあっての〜。いや、全くもって不甲斐ない・・・。」
「じいさん・・・。」
「そんなわけじゃ。お前は何もしちょらん。  
覚えておるか、お前は昔から『剣道の才能がない』とワシに言われ続けておったのを。そう言われる度にお前は毎日練習を重ね、ついには今のような実力をもつに至った。正直、お前のような人材を手放すのは惜しい。じゃが、お前には『小説を書く才能も無い』、そうじゃな・・・?」
「・・・じいさん、俺、俺、ごめん・・・。」
一は涙を流しながら答えた。そこに、あゆが近寄ってきた。
「あらら、どうやらボクの推理は間違ってたみたいだね。ごめんなさい、犯人呼ばわりしちゃって。」
と言いながら一に頭を下げた。
「あ〜あ、ボクってとんだ迷探偵だな〜。」
「いや、君はやっぱり名探偵だよ・・・。」
「・・・、ありがとうございます。」
その後、電話に海人や、洋香がかわるがわる出て、慎造と話した。
その間、真琴はあゆにこっそりと話しかけた。
「あゆあゆ、こうなることを分かってたの?」
「さて、どうなのかな。」
「とぼけないでよ。さっき、事情聴取の時にあゆあゆとあのヤクザにたいな警部さんと二人きりになって何を話してたの?」
「さ〜て、なんだったかな〜?ボク、覚えてないよ。」
「あう〜〜、あゆあゆのいじわる!!」
「まあまあ、真琴ちゃん。いいじゃない、こうして無事に事件は解決したんだから。」
「う〜、はぐらかされた〜〜・・・。」

 

その後、あゆと真琴と洋香は慎造のお見舞いに行ったりして、残りの数日を過ごした。一はまず慎造に家を出て行くことを告げ、上京するための家探しを始めた。  
あゆ達が帰るその日、例のヤクザのような警部があゆのもとを訪れた。
「約束通りにしといたよ。あれでよかったかい?」
「はい、ありがとうございます。」
「な〜に、あの人の娘さんの頼みとあれば、逆らうわけにはいかないよ。」
「うぐぅ、そのことなんだけど、秋子さんって一体・・・?」
という会話を真琴は途中まで立ち聞きしていたのだが、その後のセリフは怖くて聞くことができずに立ち去ってしまった。  
これが、名探偵月宮あゆの最初の事件。彼女の事件簿は、まだ始まったばかり。

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