翌朝、腹をすかせた真琴が真っ先に起きだし、一人台所へと向かっていた。名雪に借りたままの例のカエルのパジャマを着たままで。その途中にある食堂から慎造が出てきて、真琴とすれ違った。
「おや、おはよーさん。なかなか、早起きじゃなー。」
「あう?あ・・・、えっと、おはよーございます。おじいさんも早いんだね〜。」
「はっはっは!老人は朝が早いんじゃよ。」
そう言って慎造は玄関の方へと向かっていた。
「今から道場に行くんですか?」
と真琴。
「あー、うむ。朝の精神統一じゃよ。」
「へー。」
「お前さんたちもあとから来んか?あの、なんといったかの・・・。」
「あゆあゆのこと?」
「そうじゃ、あの娘が窓の開け方を知りたがっておったからの。昨晩中に分からねば答を教えると言ったのじゃ。」
「あー、そういえばそんなことを・・・。あゆあゆ、解けたのかな?」
「お主はどうじゃ?」
「あう〜、真琴はさっぱりだよ・・・。」
「はっはっは、そうか。ならば後ほど教えよう。それよりお主、腹が減っておるのじゃろう?」
と慎造が言うや、真琴の腹の虫がなった。
「あう〜、忘れてた・・・。ご飯食べなきゃ。それじゃあ、またねおじいさん!」
言うが早いか、真琴は台所に駆け出していた。その様子を笑顔で見送った慎造は道場へと向かった。
「うぐぅ、寝不足だよ〜・・・。」
「あゆちゃん、目の下にクマができてるよ〜。」
真琴が台所に向かっている頃、あゆと洋香がほぼ同時に目を覚ましていた。あゆは何処で買ったのか、左胸にバイクに乗ったたい焼きのプリント、背中には「TAIYAKI RIDER」という文字の入ったパジャマを着ていた。洋香のパジャマはごく普通のもので、青地に水玉模様の入ったデザインであった。二人は完全に目が覚めてから、服を着替え、身支度を整えてから食堂に向かった。
「あゆちゃん、なんでそんなに眠れなかったの?まさか、本気で窓の開閉方法考えてたの?」
「うん、なんだか妙に気になっちゃって・・・。」
そう言いながらあゆは欠伸をかみ殺していた。
「それで、解けたの?」
「うん、その件に関してはまた後で。まずはご飯だよ!ボクお腹ペコペコだよ〜。」
あゆと洋香が食堂に入ると、
「ファ、ふぁゆふぁゆひ、ひょうふぁひゃん、おふぁひょ〜〜。」
と真琴が目玉焼きとご飯を口に運びながらあゆと洋香に話しかけた。
「うぐぅ、何言ってるか分からないよ・・・。真琴ちゃん、口にものを入れながら話すのはお行儀悪いよ。この間も秋子さんに言われてたでしょ。」
そう言ってあゆは真琴の隣の席に着いた。洋香は台所に春代の手伝いに行くと言って、出て行った。
「あ、そういえばあゆあゆ、さっきおじいさんに会ってね、あとで道場に来なさいって。窓の開け方を教えるからって。」
「うん、ありがとう。真琴ちゃん、でもね・・・。」
とあゆがなおも言葉をつなげようとした時、食堂の扉が開き、洋香と春代がお盆に食事をのせて入ってきた。そして、あゆと洋香、春代は朝食をとった。
ひとあし先に朝食を済ませた真琴は、着替えのために部屋に戻った。その途中、階段の手すりに手をかけながら海人が松葉杖を脇にはさんで降りてくるのにすれ違った。真琴は挨拶をしたが、海人は相変わらずの無表情でそのまま食堂に歩いていった。
「あう〜、なんだか感じ悪〜〜い!!」
と真琴は海人を睨みつけながら階段を上っていった。
その後、食事を終えた2人と着替えた真琴は道場へと向かった。道場の扉の前に立ち、洋香は2,3度慎造の名を呼ぶが、返事は返ってこなかった。
「おかしいな〜・・・。おじいちゃん、中にいないのかな〜?」
「中で寝てるのかもよ?」
と真琴。
「うーん、まさかそんなことは・・・。」
「とにかく、中に入ってみよ?」
とあゆは言いながら扉を開けようとした。扉はスライド式になっている。
「あれ、鍵がかかってる・・・。」
「うーん、ということは中にいて寝ているか、外に出ちゃったか・・・。離れの方にいったのかな?」
「いや、離れにはいなかったよ。」
と、一がその離れの方角からやってきた。
「俺も、じいさんに用事があって来たんだけど、道場からは返事がねーし、鍵もかかってるから、離れにでも行ったのかと思って確認しに行ったんだが・・・。」
「うーん、他におじいちゃんの行きそうなところといえば・・・?」
「外に散歩に行った、なんてことはないのかな?」
とあゆ。
「でも、それなら無断で行くわけはないから、必ず私達の誰かに言ってからにすると思うんだけど・・・。」
「まさか、中で殺されてたり・・・、なんてことは・・・。」
と真琴が両手を幽霊の手つきみたいにしながら言った。真琴としては冗談のつもりだったのだろうが、その場にいた全員、息を呑み扉を睨みつけていた。
「えっ!?あれ、あのー、い、今の冗談だよ!?ほら、よくドラマなんかだと、こーいうしちゅえーしょんで・・・。」
「何もなければそれでよしとして、この扉をぶち破るか・・・。残念ながらここの鍵は1つしかねーからな・・・。俺、斧持ってくる!」
そう言って一は駆け出した。数秒後には手に斧を持って現れ、それでもって扉を壊し、4人は中へとなだれ込んだ。
道場の中には、背中から血を流した慎造が倒れていた・・・。
さいわい、まだ息はあるらしく、一が警察と救急車を呼びに、母屋へと戻った。
違い棚に飾ってあった日本刀の1本が無くなっていて、道場の鍵はもう1本の日本刀の前に置かれていた。地上3メートルの位置にある窓は全て閉まっていて、唯一の鍵は室内にあった。ということは・・・。
「ねえ、これって密室ってことなの?」
と洋香。
「一体どうやって・・・?犯人は誰なの・・・?おじいちゃんをこんな目に合わせた犯人は・・・。」
あゆは黙って、窓を見上げていた。
「分かったよ、真琴!!ごーとーだよ!!だって、ほら例のこくほーきゅーの日本刀が盗まれてるじゃない!それ目当てでやってきたごーとーが、日本刀を盗んでるまさにその時におじいさんと会っちゃって、思わず盗んだ日本刀でズバッ、と・・・。」
「それだと、犯人はどこからどうやって入って、どうやって脱出したのか分からないよ?」
とあゆ。
「あう〜、それじゃあ、あゆあゆは分かってるの?」
「『人生という無色の糸には、殺人という緋色の糸が混じりこんでいる。ボクたちの仕事はそれを解きほぐし、分離して、1インチ残らず日の光の下にさらけ出すことなのだ』とは、かの有名なシャーロック・ホームズのセリフだよ。今回は殺人にはなってないけどね。」
「あゆあゆ、いつシャーロック・ホームズなんて読んだの?」
「まあ、ともかく、今回の絡まっている「緋色の糸」は解きほぐせたよ。」
「「えっ!!??」」
と、真琴と洋香は二人そろって驚きの声をあげた。
「犯人は残念だけど、この家の人たちの中にいるんだ・・・。」
「本当なの、あゆちゃん!?」
「本当だよ・・・。」
「でも、本当に解けたの、この謎?真琴には信じられないんだけど・・・。」
「ホントだよ!!なんたって、ボクは名探偵なんだからね!!」
と、あゆは胸を張って答えた。