第一幕 殺意の日本刀

問題編2

「うわー、すごいすごい、景色がどんどん後ろに行ってるーーー!!」
「真琴ちゃん、新幹線初めてなんだね。」
「ボクも初めてだよ〜。すごいね〜、ボクが寝てる間にこんなに文明って進化してたんだね〜。」
「えっ、いや、8年前にも新幹線はあったと思うけど・・・。」
「あれ、そうだっけ?」  
あゆと真琴と洋香は新幹線に乗っていた。洋香の実家は新潟にあるため、かなりの長旅である。その道中、人生で初めて新幹線、というか電気で動く乗り物に乗った真琴は興奮しっぱなしでうるさく騒いでいた。あゆも新幹線は初めてだったのだが、そこは一番年長者という意識から心の興奮を抑えていた。洋香はスカートに半袖シャツ、カバンは旅行バッグ。そのバッグにはかわいいクマのぬいぐるみがついていた。真琴は長袖に上から半袖の服を着ていて、Gパンを履いている。カバンはリュックサックで、何が入っているのかパンパンだった。右手には、祐一に買ってもらった例の鈴をつけていた。あゆはスカートに長袖のシャツ、肩からたい焼き型のバッグをかけていて、背中には羽つきのリュックをかるっていた。そのたい焼き型のバッグには天使の人形のキーホルダーがついていた。例の「願いを叶えてくれる」人形である。  
ちなみに、洋香が実家離れて遠くの高校に通っているのは「何事も人生経験」という、榊家の家訓の為らしい。最終的に何処の高校を選ぶかは洋香本人に任されたのだが、「制服がかわいい」という理由で決めたらしい。

 

昼過ぎに新潟に到着し、そこから電車やバスを乗り継いで、ひたすら山道を歩いて、ようやく洋香の実家に辿り着いた時にはもう夕方になっていた。途中には他に家が1件しかなかった。
「この辺りには他に人住んでないの?」 とあゆが尋ねた。
「そうなの。あの家に住んでる桜咲さんくらいかな?あそこの人ね、どうも数年前にお子さん2人を亡くされたらしくて、それ以来あの家にショックで引きこもっているらしいわ。」
「へ〜、なんだかかわいそうだね・・・。」 そして、3人は洋香の実家の門前に立った。
「ふわー、大きいね〜・・・。」
「あう〜、すごく大きい・・・。」
「まあ、確かに無駄に大きすぎる感はあるかもね。」 洋香の実家はまず門からして4、5メートルはあろうかという大きさで、さらにその門を入ってから玄関までがさらに10メートル以上あった。庭には道場らしき建物もあり、その道場の窓は地上3メートルくらいの位置にあった。広さは15メートル四方くらいだろうか。
「ねえ洋香ちゃん、あれが道場なの?」
「ええそうよ。国宝級の日本刀もあの中に飾ってあるの。」
「へ〜、大きいね〜。でも、あの窓ってどうやって開けるの?」
「ん〜、お弟子さんたちが開けてるらしいんだけど詳しいことは知らないんだ。兄さんに聞いても教えてくれないし。」
「お兄さんがいるの?」
「あ、うん。あのね・・・」
「おや、お帰り洋香。あ〜、そちらがお客さんだね。」
そう言って庭の道場とは反対側から、箒とちりとりを手に持った割烹着姿の少し小太りな中年の女性が現れた。
「あ、お母さん。紹介するね、こちらの子が私のクラスメイトのあゆちゃんで、この子があゆちゃんの友人の真琴ちゃん。」
「あ、は、初めまして。ボク月宮あゆです。」
「あう〜、えっと沢渡真琴です・・・。」
「こんにちは。話には聞いてますよ。私がこの子の母です。」
そう言って洋香の母、榊春代は二人にお辞儀した。本来ならこういったお屋敷では使用人を雇って、庭仕事などをやらせるものだが、春代がそういった仕事が好きだという理由から、また洋香の父・作蔵の倹約精神からも使用人は雇っていないのだという。ちなみに今、作蔵は修行の旅に出ていて家にはいないらしい。
「えっ、修行の旅ってこのご時勢に・・・?」 と真琴が不審がるのも無理はないだろう。
「あはは、お父さんって結構変わり者だから・・・。」
「変わり者過ぎよっ!!」

 

三人が家に入ると、玄関そばの階段から一人の男性が降りてきた。背は高く、歳は二十歳くらいだろうか。
「おっ、君達が妹の友人かい?よく来たね、こんな何もないところに。わざわざご苦労様。」
「イチニイ、久しぶり。あ、紹介するね、・・・」
「いや、自分で言うよ。俺は長男の一ってんだ。ま、短い間だけど、よろしくな。」
「イチニイは一応ここの道場を継ぐことになってるんだよ。」
「へ〜、そうなんだ。こちらこそよろしくお願いしま〜す。」
「あれ、カイニイはいないの?」
「あ〜、海人か。あいつならもう、食堂に行ってるんじゃね?」
「お兄さん、二人いるの?」
「うん、次男の海人兄さんがね。」
「う〜、そんなことより、私もうお腹ぺこぺこだよ〜・・・。」
「あらあら、そうかい?じゃあ、もう夕飯にしようかね?そうだ、洋香。あなた、おじいちゃん呼びに行ってくれる?おじいちゃん、離れの書斎にいると思うから。」
「は〜い。じゃあ、あゆちゃん、真琴ちゃん先に食堂に行っててね。」

 

あゆと真琴は一と春代と共に食堂へ向かった。食事も全て春代の手作りだそうだ。食堂の席には一人、眼鏡をかけて、文庫本を読んでいる少年がいた。そばには松葉杖があり、その少年はどうやら足を骨折しているらしかった。歳はあゆと同じくらいだろうか。(あゆは高校一年だが、7年の間眠っていたので実際には今19歳である)おそらく、この少年が次男の海人なのであろう。  
あゆと真琴は彼に挨拶するが、少年は頭を少し下げただけだった。
「おいおい、海人、せっかくのお客だぞ。もう少し明るく接しな。ははは、すまんね、こいつ、昔から無口でさ、何考えてんのかさっぱり分かんないんだ。」
と一。彼によると、海人の骨折は学校で文庫本を読みながら歩いていて、うっかり階段で足を滑らせたかららしい。
「普段から体鍛えないで本ばっか読んでるから、階段から落ちたくれーで足骨折すんだよ。」
「・・・・。兄さんみたいに体力馬鹿にはなりたくないからね・・・。」
「なにお〜う!!」
「ほれほれ、それくらいにせんか。せっかくの客人の前じゃぞ。」 そこに現れたのは道着を着た、白髪の老人で、おそらくこの人物が洋香のおじいちゃんなのだろう。洋香もそばに立っていた。その老人はあゆたちに向き直ると、
「初めまして。孫が世話になっとるのう。ワシの名は榊慎造という。短い間じゃが、よろしく頼むぞ。」
「あ、いえこちらこそ、えっとお招きいただき、えっと・・・。」
「まあまあ、堅苦しい挨拶はなしじゃ。それに、そこのお嬢さんはもう食事が待ちきれんみたいじゃしな。」 と言って、慎造はよだれをたらしている真琴を指差しながら笑った。
「ちょっと、真琴ちゃん、お行儀悪いよ!!」
「あう〜、だ・・・、だって〜〜・・・。」
「はいはい、それではいただきましょうね。お口に合えばいいのですけど・・・。」

 実際、春代の料理はなかなかの絶品で、真琴は次から次へと料理に箸をのばしていた。あゆも負けじと箸をのばす。その様子を春代と慎造は笑顔で、一と洋香は驚きの目で、海人は全く興味なさそうに見ていた。  
食事の後、あゆたちは慎造に道場に誘われ、例の国宝級の日本刀というものを見せてもらった。道場はフローリングで、若干奥行きが横幅よりも長く設計されており、奥の間には畳がしかれていた。奥の間には違い棚や掛け軸がかけてあり、違い棚に日本刀が置かれていた。長さは1.5メートルほどあり、つばは周囲に穴のあいた円形をしていた。それがなぜ国宝級なのかと言う説明をあゆたちは聞くのだが、よく意味がつかめず、真琴にいたっては目の焦点が合わなくなっていた。  
ちなみにあゆは昼間気になっていた、地上3メートルの位置にある窓の開閉の方法について慎造に尋ねた。
「フォッフォッフォッ、まあ、それも修行の一環となっておるのじゃよ。今日一晩、考えてみなさい。それでも分からねば、明日の朝教えてやろうぞ。」
と慎造。結局、明確な回答は得られなかった。

夜ももう遅いから、ということで話の続きはまた明日ということになり、あゆと真琴、洋香は敷地内にある温泉に入って、部屋に入り、しばらく三人でトランプなどをして遊び、夜12時には三人とも布団に入って寝てしまった。

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