月宮あゆは迷っていた。
「うぐぅ・・・。」
所持金は213円。たい焼き一つの値段は210円(税込み)。こしあんにするかつぶあんにするか、それは今の彼女にとって非常に重大な問題であった。
「よし、決めた!!おじさん、つぶあんください!!」
「いいの〜〜?本当につぶあんで〜〜??1つしか買えないんだよ〜〜。」
「うぐぅ〜〜〜、余計なこと言わないでよ〜〜、真琴ちゃん!!」
「えへへ〜〜、あゆあゆ困ってる、困ってる〜〜。」
横からチャチャを入れたのは沢渡真琴。二人はとある事情から知り合いの水瀬秋子という人の家に居候している。二人は夕飯の買い物で商店街に行き、その帰りに真琴は肉まん、あゆはたい焼きを買って帰るところだった。
「もう決めたの!!今日はつぶあんにする!!明日こしあん食べるもん。」
「明日って、あゆあゆもうお小遣いないんでしょ?しばらく買えないんじゃない、たい焼き・・・。」
「うぐぅ、そうだった・・・。う〜〜・・・、でもいいもん。」
「食い逃げするから?」
「もうしないもん!!祐一君に買ってもらうんだよ〜。」
「あはは、祐一かわいそ。」
結局あゆはつぶあんのたい焼きを買い、二人は家路につくのだった。その途中、
「あれ、あゆちゃんじゃない?」
「えっ!?あー、洋香ちゃん!!どうしたのー?」
そのあゆに話しかけたポニーテールの少女はあゆのクラスメイトで、名前は榊洋香。剣道部に入っていて、部活帰りなのか竹刀の入った袋を持っていた。身長はあゆより少し背が高いくらいで、体格もあゆに似ている。
「部活帰りなの?」
「うん、そうなんだ。あ、ねえそれよりどうだったの?」
「あ、うん、大丈夫。秋子さんも了承してくれたよ。」
「ねえ、あゆあゆ、一体何の話?」
「あ、えっとね、今度のゴールデンウィークにね、洋香ちゃんの実家に来ないかって、誘われたんだ。」
「ええと・・・。」
「そうだ、紹介するね、洋香ちゃん。こちらはボクと一緒に秋子さんの家でお世話になってる真琴ちゃん、沢渡真琴ちゃんだよ。でね、真琴ちゃん、この子は私のクラスメイトで剣道部の榊洋香ちゃん。」
「ど・・・、どうも。」
「初めまして、お話は聞いていますよ、真琴ちゃん。よろしくね。そうだ、真琴ちゃんも一緒に来る?あのね、おじいちゃんにあゆちゃんのこと話たらぜひ今度家に呼びなさい、ということになってね。私の実家は剣道の門下やっていてね、おまけに何故か国宝級の日本刀まで置いてあったりして、それなりに名が知られてるらしいんだけど。まあ、そんなことはどうでもよくて、とにかくおじいちゃん若い子が好きでね、何かあるたびに友達も誘ってきなさい、って言うもんだから。」
「う〜、それって変な意味じゃないでしょうね?」
「あはははは、そんなことないよ。純粋におじいちゃんお話が大好きなだけなの。特に私みたいな孫年代の子供と話すと若返る気がするからって。」
「そんなわけだし、真琴ちゃんも行こうよ、国宝級の日本刀とか見てみたくない?」
「む〜、あゆあゆがそう言うなら。どうせ、ゴールデンウィークには保育所のバイトも入ってないし。」
「決まりだね!じゃあ、おじいちゃんに言っとくよ。詳しい段取りなんかは明日また学校でね。」
「うん、じゃあまた明日ね、洋香ちゃん。」
洋香は竹刀を持っていないほうの手を振りながら、商店街の中を走っていった。その姿を見送ると、あゆと真琴は水瀬家への帰路を急いだ。だんだんと日が長くなってきた春先の商店街、去年の春はいろいろあって純粋にその暖かさを感じることのできなかった二人だが、あゆは無事に高校に入学し、真琴は保育所のバイトに馴染んできた。厳しい冬が過ぎ、春の暖かさをその肌を持って、再び味わうことができるようになった二人。彼女らの運命は再び動き出した。二人は思い切り今を楽しんでいた。その先に、惨劇が待っているなどとは知らずに・・・。