鴇羽舞衣と玖我なつき、美袋命の3人に、月杜町で行き倒れになっていた少女・夢宮ありかを合わせた4人は、月杜町のデパートに来ていた。元々はカフェでコーヒーを飲むだけの予定だったのだが、ありかと命の腹の虫を落ち着けるために少し早い夕食をとることにしたのだった。
時刻は夕方の6時。舞衣たちはデパートの地下食品店街へと降りていった。
「おおっ!食べ物のおいしい匂いがするぞ!!」
「はふぅ〜、いい匂い〜・・・」
「さぁ、命にありかちゃん、何処で食べたい?」
「わたしはどこだっていいぞ!」
「ん〜、いっぱいありすぎて迷っちゃいますね〜。あ〜、どこにしようかなぁ〜?
あっ、でもあたしお金持ってないんですけど・・・」
「心配いらないわ、今日はなつきのおごりだから♪」
「ああ、だから心配するな・・・って何故わたしがおごらねばならん?!」
「おお、ノリツッコミ♪」
「本当ですか、玖我先輩?!ありがとうございます!!」
「太っ腹だな、なつき!!」
「いや、だから何故わたしが・・・」
「まぁまぁ、いいじゃない。ここはかわいい後輩たちのためにも、生徒会長として人肌ぬいであげれば?」
「・・・全く、分かったよ。おごればいいんだろう、おごれば!」
渋々といった感じで引き受けるなつき。
「さっすがなつき!」
「ご馳走になります、先輩!」
「ん!!」
「ただし!」
そこでなつきは舞衣を指さし、
「舞衣、お前にはおごらんぞ!」
「は、はぃいいーーーーーーいっ?!」
「『はぃいーいっ?!』じゃない!お前だって先輩だろうが!」
「でも、あたしはなつきより年下だもん!」
そうなのだ。なつきは一番地という組織を追っていた時期があり、1年休学しているため舞衣たちより1つ年上になるのだ。
「だから、あたしにもおごってよぉー、なつきぃー?」
そう言ってなつきに猫なで声ですり寄る舞衣。
「ダメだ!」
「ちぇ、なつきのケチ。」
「何故おごらないだけでお前にそこまで言われねばならん?!
そんなことより、ありかは何処で食べたいか決まったのか?」
「え、あ・・・、んっと、そうですね〜・・・
あ・・・、あそこにします!」
そう言ってありかが指さしたのは、有名な牛丼のチェーン店・吉藻屋だった。
「吉藻屋・・・?そんなところでいいのか?」
予想外の場所に驚くなつき。吉藻屋は“早くて安くて美味い”をモットーに全国展開している牛丼屋で業界トップの売り上げを誇っている。
「ハイ!あたし、牛丼って食べたことがないので、どんな味なのか興味があるんです!」
「「牛丼を食べてことがない?!」」
ありかの発言に舞衣となつきがハモって驚きの声を上げる。
「はい、あたしの住んでいた田舎には吉藻屋は無かったんです。それに、あたしの家も貧乏で、家で牛丼を作って食べるということも無かったですし♪」
暗い話を平然と笑顔で話すありか。
舞衣となつきは一体どう返答すればよいのか分からず、お互いに向き合って目で「お前がなんとか言え」と譲り合っている。
「そうか、ありかは牛丼を食べたことが無いのか!牛丼は美味い!舞衣のラーメンほどではないが、あの汁と牛肉の・・・」
空気を読めない命は牛丼がいかに美味いかということを大げさな身振り手振りで説明し始めた。舞衣となつきがあわてて命を止めようとするが、
「わぁ、そうなんですか!!あたし、すっごく楽しみです!!」
相変わらず笑顔で応じているありかを見ると、ありか自身過去のことに関してはさほど気にしていないようで、舞衣たちもこれ以上立ち入ったことを聞くのも躊躇われたため、とりあえずありかの要望である吉藻屋へと入っていった。
―――風華学園、教会。
シスター紫子が理事長邸へと向かってから大分時間が経った。シスターの夫である美術教師・石上亘もその頃には仕事を終えて教会に来ていた。
「用事はすぐ済むって言ってたのに、もうあれから1時間経つじゃないか・・・
さすがに遅すぎないかい?」
と教会の長いすに座っている修道服に身を包んだ少女、結城奈緒がつぶやく。
「よほど何か込み入った用事、ということなんでしょうか?」
シスターの娘をあやしていた金髪の少女、アリッサ・シアーズが答える。
「しかし、それではすぐ済むとは言わないでしょう。それに、理事長からシスター紫子に対してそこまで込み入った用事があるとも思えません。」
アリッサの後ろに立って控えている、奈緒と同様に修道服に身を包んだアンドロイドの少女、深優・グリーアがアリッサの言を否定する。
「まさか、何か事件に巻き込まれた、とか言うんじゃないだろうね・・・?
最近は何かと物騒だし。」
「その可能性は否定できません。」
「な・・・、なんだって?!僕の最愛の女性、紫子さんが事件に巻き込まれただって?!そんな馬鹿なことがあってたまるか!いや、しかし紫子さんは美しいからな、強姦に襲われても・・・、ああっ、紫子さん!あなたの美しさはそれだけで罪だ!なぜなら、周囲にいる青春の情動を抑えきれぬ若者たちを虜にし、犯罪行為に走らせてしま・・・」
「深優、石上先生を黙らせて差し上げて」
「ハイ、お嬢様。」
命令を受けた深優は、一瞬で石上の背後に回ると、
ガッ!!
「う・・・ガハッ?!」
バタンッ!
首に手刀を決めると、電池の切れたロボットのごとく、綺麗に前のめりに倒れる石上。
「・・・アンタ、容赦ないわね・・・」
「さて、それでシスターのことですけど・・・」
「ああ、それならあたしが様子を見てくるよ。アリッサちゃんと深優さんはここにいな。」
「しかし、もし万が一という事態になっていては・・・」
「大丈夫だよ、あたしは一応“生徒会の裏の仕事”も請け負ってるんだ。多少の修羅場には慣れっこだよ。心配はいらないさ。それより、シスターの娘のこと、頼んだよ?」
「奈緒さん・・・。分かりました。でも、気をつけてくださいね。」
アリッサの声に軽く手を振り、修道服を脱いで教会を出る奈緒。
時刻は夕方の5時ごろ、ちょうど舞衣たちがありかを路地裏で見つけている頃だ。4月のこの時期のこの時間帯はまだ肌寒く、奈緒は吹き抜ける風に一瞬身震いし、自身を守るように身を縮こませる。
「う〜、寒っ・・・。もう春だってのに、なんでこんなに寒いのかね・・・?」
そうつぶやき、何とは無しに空を見上げる奈緒。
それは、偶然見上げただけのことだった。
月が出ていた。満月にはまだなっておらず、あと2・3日すれば満月になる、といったところだろうか。
その月の横。
何かの見間違いだろうと、奈緒はそう思った。
・・・ありえない。
そう、ありえるハズが無いのだ。
月の横、本来あるはずの無い“赤い星”が光っていた。
それは、かつて、2年前の“蝕の祭”の際にも、“HiME”たちにのみ見えていた、災いを呼ぶ星、“媛星”。しかし、2年前にその“媛星”は奈緒を含む“HiME”たちによって破壊されたのだ。
だから、月の横に“赤い星”があるなんてことがあってはならない、いやありえないのだ。
「一体どういうことなんだい・・・?!なんで、“媛星”が見えるのさ?!」
と、先ほどの自分の発した言葉がよみがえる。
「何か事件に巻き込まれた・・・」
まさか、と思いつつ駆け出す奈緒。向かうは理事長邸。奈緒は、我知らずつぶやいていた。
「・・・ジュリア!!」
かつての、彼女が“HiME”だったころの最愛の人への想いの結晶“チャイルド”の名を。
その呼びかけに応じるかのように、奈緒の隣を並走する大きな存在が姿を現していた。女郎蜘蛛を模した、彼女の“チャイルド”ジュリアが・・・
髪が金色に輝く少女は森の中にいた。その右手には巨大な蒼色の大太刀が握られていた。
その足元には仰向けに倒れたシスター紫子の姿があった。
「思った以上に手間取ってしまった。やはり、まだこちらの力が不十分とはいえ、シスターの能力はやはり厄介だったな。早めに“回収”しておいて正解だった、ということか・・・」
少女は右手に持っていた大太刀を“消す”と、
「さて、長居は無用・・・」
そうつぶやき、立ち去ろうとする。
が、その少女の足首に後ろから絡みつく白い糸。突然の出来事に驚き、背後を振り返る少女。と同時に、先ほど“消した” 大太刀を再び右手に出現させ、反撃の構えをとろうとするが、
「遅い!!」
何者かの声とともに、大太刀が握られた少女の右腕に足首に絡みついている糸と同種の糸が絡みつき、少女の腕を締め上げる!
「くっ・・・!!」
その締め上げられた痛みから、右腕に持っていた大太刀を地面に落とす少女。
「この・・・、糸は、結城・・・奈緒・・・?!」
苦悶の表情を浮かべながらも、その突然自分を捕らえた襲撃者がいると思われる方向を見据える少女。
「あたしのことを知っているのかい?そいつは光栄だね。でも、こっちはアンタのことを知らないんだよね。・・・アンタ、一体何者だい?それから、あの“媛星”はアンタの仕業かい?なんで、また再びあれが姿を見せてるのさ?!」
少女を捕らえている糸を辿ったその先、そこには女郎蜘蛛を模した“チャイルド”ジュリアの姿があり、その上にはジュリアを具現化させている“HiME”結城奈緒の姿があった。
―――風華町、風華学園の寮へと続く道。
舞衣たちが吉藻屋で牛丼を、奈緒が謎の少女と対峙している頃、月杜町で買い物を終えて帰路についていた楯祐一と宗像詩帆。
「今日は楽しかったね、お兄ちゃん♪」
「オレは楽しくなかったよ!ったく、人の金だと思って散々買いやがって・・・」
そう言う楯の腕の中には大量の箱が積み上げられていた。それは全て詩帆の荷物で、買った内容は大概が洋服関係で、その全ては楯の財布から支払われたものだった。
「だから、そのことはもう謝ったじゃない。お金が足りなかったんだって。」
舞衣に負けたくない。しかし胸のボリュームでは勝てる気がしない。それならばかわいい服を着て着飾ればいい!そう、孔雀が美しい羽を持つように・・・
詩帆にとって、その考えは完璧に思えた。これならば、楯を落とすことが出来るはずだと。そこで詩帆はとにかくかわいい服を見つけてはレジカゴに入れていった。フリルのついたピンク系の普通にかわいい服から、黒いゴスロリ系の服、そして何故デパートにあるのかメイド服etc・・・。しかし、レジに持っていった時に気づく。値札を確認していなかったということに。当然ながら、そういった服は安いハズもなく、詩帆の財布の中には会計の額の半分のお金も入っていなかった・・・
楯がたまたまそれだけの金を払えた、というのもその前日にアルバイト代が入っていて、今日はその全額を下ろし、ちょっと“エッチなゲーム”を秘かに買おうかと考えていたからだった。むしろ、そのために春休みは死ぬほどアルバイトをしていた、とも言える。
そのお金がすっからかんになってしまった楯は当然愉快な気持ちになれるハズもない。
「しっかり金は全額返してもらうからな!」
「わ・・・、分かってるよ〜。」
(う〜・・・、明日からバイト探さなきゃ・・・)
さすがの詩帆も悪いことをしたと猛反省をしているようだ。
ハァ〜、とため息をつき、フッと空に見える月を見上げる詩帆。
と、その目に映るのは、
煌々と輝く“赤い星”。
詩帆がその意味を理解するよりも早く、何者かの声が周囲に響く。
「宗像詩帆、お前の力を“返して”もらう。」
彼女らの前に姿を現したのは、
髪が金色に輝く少女だった・・・
「奈緒さん、今はまだあなたとまともにやりあう気はありません。」
その髪が金色に輝く少女は答える。と同時に、少女はまるでそこに初めから誰もいなかったかのごとく、一瞬で姿を消す。後に残るのはジュリアの糸のみ。
「なっ、あたしのジュリアの糸を抜けただって?!」
いとも簡単に抜け出され、さすがの奈緒も混乱を隠せない。
「残念ですが、その糸で“今の私”を捉えることは叶いませんよ?」
金色の髪をした少女は一瞬で奈緒の背後に回っていた。その右手には先ほど地面に落とした蒼色の大太刀が握られていた。
「ちぃっ!」
背後からの少女の一振りに対し、奈緒はとっさに振り返り、自らの指に具現化させたワイヤー状の“エレメント”でその大太刀を絡めとり、大太刀の勢いをそのまま左斜め下方へと流す。少女の大太刀からワイヤーを素早く外した奈緒は、その勢いのまま少女の背後に回り、自由になったワイヤーを周囲の木々の枝に絡ませ、それらを切断する。奈緒の“エレメント”は伸縮自在で、あらゆるものを切り刻むことができる。
少女の頭上に降りかかる数々の木の枝。
「さぁ、潰れなっ!!」
ズズーーーーーーーーンッ!!
木の枝が地響きを上げて地面に落ちる。これだけの枝に押しつぶされれば、普通の人間ならば即死だろう。だが、“彼女”は普通ではない。この程度で死ぬことはないだろう。
「やはり奈緒さん、あなたは強い。シスターの能力とは違った意味で、本当に手強い能力です。今の私の力ではアナタの力には及ばないでしょう。」
土煙が開け、木の枝の上に立つ金色の髪の少女は、全くの無傷だった。
「無事だとは思ってたけど、そこまで無傷っていうのは、かなり癪に障るね・・・」
毒づく奈緒だが、内心では相当の焦りを感じていた。
“HiME”の戦い。負ければ、自身の“チャイルド”が消されれば、彼女の想い人が消えてしまう。2年前に味わった、あの悲しい想い。出来れば2度とこんな戦いはしたくなかった。最初のジュリアによる攻撃で相手を捕らえられれば戦わずに済む。そう考えていた。
それが、一瞬で拘束を逃れられ、あまつさえ相手の一撃を避けての反撃も全く効果が無かった。
この少女相手には何をしても勝てる気がしなかった。力関係では、恐らく自分の方が上だろう。少女の一撃を軽く流すことができたことからも、そのことは分かる。少女自身もそう語っている。だが、それでも勝てる気がしなかった。何故そう思うのか、奈緒自身にもよく分からなかったが、2年前以来シスターのアルバイトとは別に生徒会の“裏の情報屋”として働くようになってから多くの修羅場をくぐってきた、その経験から、この少女と戦うべきではない、と本能が告げているのだ。
この戦いに負ければ、母さんがまた・・・
「・・・奈緒さん、あなたは恐れてますね?この戦いに負けることを・・・
だから、本来の力が発揮できていない。まあ、私にとってはこれ以上のチャンスも無いわけですが。予定には入っていませんでしたが、今日ここでアナタの力も“返して”もらいましょう!!」
奈緒の心中を見透かしている少女は、再び蒼色の大太刀をかまえ、奈緒に向かってくる!
「・・・くっ、なめるんじゃないよ!!」
再びジュリアの糸で少女を攻撃する奈緒。しかし、その放たれた糸は少女をすり抜ける。と同時に、少女の姿も消えていた。
「また消えた?!」
先ほどと同じ手、そう思い背後を振り返る奈緒。しかし、そこに少女の姿はなく、
「チェックメイトです、奈緒さん・・・」
振り向いた奈緒の左側に現れる少女。奈緒はとっさに声の方へ体を向けるが、少女の手に握られている大太刀は、まさに奈緒を貫かんとしていた・・・!
「・・・ふっ、そいつはどうかな・・・?」
「・・・なっ?!」
今まさに奈緒を貫こうとしていた大太刀は奈緒の胸の寸前で止まっていた。よく見ると、大太刀の切っ先は、奈緒と少女の間にバリアーのように蜘蛛の巣状に張られた透明なジュリアの糸により行くてを阻まれていた。
「あたしを誰だと思っているんだい?その程度のフェイントじゃあ、あたしは出し抜けないよ!!」
奈緒は、自らのエレメントのワイヤーを少女の首に巻きつけ、締め上げる。
「・・・くっ!!」
「さあ、答えてもらうよ!アンタは一体何者だい?!それと、なんで“媛星”が再び姿を見せているんだい?!」
「・・・、さすがは奈緒さん、ですね・・・。あなたがこの戦いを怖がっているというのは事実、です・・・っが、だからといって、あなたを侮るのは、・・・っ間違い、だったようです・・・」
首を締め上げられながらも、少女はそれだけを言うと、
「今日のところは、あなたの力は諦めます。今日の目的は、もう済みましたので・・・。また、いずれ・・・」
まるで最初からそこにいなかったかのように、一瞬で姿を消した。
「また、消えた・・・?!
オイ、逃げるんじゃないよおぉーーーーおっ!!」
奈緒は叫ぶが、もう少女の声はもうなく、“媛星”もすでに消えていた・・・
「玖我先輩、ご馳走様でしたっ!!」
「ん、満足したか?」
「ハイ!お腹いっぱいになりました!!」
「ふ〜、わたしもお腹いっぱいだ〜!」
「命、お前は食いすぎだっ!いくら安いからといって、特盛を6杯もおかわりするバカがどこにいる?!」
「ここに。」
「っるさい!おい舞衣、お前も何か言ってやれ!!」
「ええ、あたし?!ん〜、あたしだって何度も言ってるつもりなんだけどね〜・・・」
吉藻屋で夕食を済ませた舞衣・なつき・命・ありかの4人はデパートを後にし、風華町への帰路に着いていた。
吉藻屋では、命は相変わらずの食いっぷりを披露し、よほど腹が空いていたのか、ありかも牛丼特盛を3分以内に完食し、おかわりを頼んでいた。ちなみに、ありかが2杯目を注文した時にはすでに命は3杯目の半分を食べていた。(吉藻屋の売りは“早くて安くて美味い”なので、注文して1分も待たずに注文の品が出てくるのだ)
付け加えて言うなら、吉藻屋の牛丼特盛は、大食い日本チャンピオンでさえ3杯を完食するのがやっとの量である。
結局、命は6杯を完食、ありかは4杯を完食していた。なつきにしてみれば、いくら“安い”とは言え、かなりの出費だったことには間違いない。まあ、それでも彼女のコレクションしている一番安いランジェリーに比べれば大した額にはならないらしいが・・・
「にしても、ありかちゃんもよく食べたわね〜・・・。これだけ食べるとなると、ルームメイトの妹(めい)ちゃんも大変ね〜。
同情するわ・・・」
やはり大食漢の命とルームメイトである舞衣は、心の底からありかのルームメイトとなる舞衣の友人・春妹(チュンメイ)のことを思ってため息をついた。
「はっ、そうだ春妹!!あいつにありかを保護したという連絡をしていなかった!!あいつはマジメだから、今頃まだ生徒会室でありかのことを待っているに違いない!」
なつきは、ありかの案内役として生徒会室に残してきた春妹のケータイにあわてて電話をかける。
「ああ、妹か?ああ、わたしだ。・・・ああ、そのありかのことなんだが、実は今わたしたちと一緒にいてな。・・・ああ、その詳しくは後で話すが・・・、いや分かっている、早めに連絡をしなかったわたしが悪かった!・・・そう怒らなくとも、・・・ああ、分かった、次からはきちんと・・・、ああ、分かったと言っているだろう?!・・・」
「あらら、さすがのなつきも妹ちゃんの前では形無しか。全く、どっちが生徒会長なのか分かったもんじゃない。」
「あの〜、そのちゅんめいさん、って言うのは・・・?」
舞衣の隣に立っていたありかが尋ねる。
「ああ、妹ちゃんはねあたしたちのクラスメイトで、中国からの留学生なの。それから現生徒会の副会長をやっているの。とはいえ、あんな感じで実質なつきよりはよっぽど優秀みたいよ。そして、どうやらありかちゃんのルームメイトでもあるみたいね。」
「あたしのルームメイトの先輩ですか!うわ〜、楽しみだなぁ〜!」
と、その時、いつの間にか舞衣の背中に乗っかって寝息を立てていた命のケータイ(万が一の時に連絡をとるために舞衣が持たせるようになった)と、舞衣のケータイが同時に鳴り出した。
「ん、誰だ・・・?」
「あたしのケータイも鳴ってる?一体誰から・・・?」
命のケータイには結城奈緒の番号が表示されていた。
「奈緒から・・・?」
命がケータイに出ると、
「命、アンタ今なつき会長と一緒にいるんだよね?!なつき会長が今話し中みたいだからアンタのケータイにかけたんだけど、今から言うことをなつき会長に伝えてくれるかい・・・?」
舞衣のケータイには楯祐一の電話番号が表示されていた。
「ええ、このタイミングで?!・・・ったく、いっ、一体何の用かしら?」
頬を染めながら電話に出る舞衣。一応、恋人からの電話だ。ひょっとすると、これから・・・、なんて話なのかもしれない。もしそんな話だったとすると、一体どう返事をすればいいのだろう?舞衣は、期待半分な気持ちで「もしもし・・・」と答える。
「とっ・・・、鴇羽か?!えっと、そ・・・その、たっ、大変なんだっ!」
「・・・え?!一体どうしたっての、そんなに慌てて?!」
電話に出た楯の予想外の慌てた様子に、舞衣は何か嫌な予感を覚える。
「しっ・・・、詩帆が・・・!!」
「・・・奈緒が襲われた?!それにシスターも・・・?!」
「詩帆ちゃんが襲われた、ですって・・・?!」
「シスター紫子の能力、そして宗像詩帆の能力・・・
予定通り、2つの“欠片”を回収することに成功した。
残る“欠片”は、あと・・・」
奈緒を襲い、詩帆をも襲った少女は、理事長邸にて月を眺めていた。少女の髪は、今は金色ではなく、元のオレンジがかった茶色に戻っていた。その少女の手には水晶のような“欠片”が3つ握られていた・・・