舞-HiME 終

第二章 行き倒れの少女?!

にぎやかな仲間達が帰ると、そこにはわずかな客しか残っておらず、リンデンバウムには急な静けさが訪れた。
「ふ〜、やれやれ。なんとなく落ち着いた感じになったわね。・・・それにしても・・・。」
そう言ってチラッと時計を見上げる舞衣。2時ごろ、彼女はここである人物と待ち合わせをしていたのだが、未だに表れる気配がない。
「ん〜、やっぱ生徒会の仕事が長引いちゃってるのかしらねぇ〜・・・?」  
と、そこへドアベルの音が鳴り響く。そして入ってきたのは、
「いらっしゃいませ〜・・・、って雪之ちゃんに・・・珠洲城さん?!」
「ああ、舞衣ちゃんこんにちわ。」
「あら、アナタ・・・。そっかアナタまだここで働いてたんだ?」
赤髪にくせっ毛の雪之と、デコを燦然と輝かせた見るからに気の強そうな少女、珠洲城遥だった。
「おお、雪之か!久しぶりだなぁ!それと・・・隣のお前は誰だ・・・?」
「んっなっ?!わ・・・わたしのことを忘れたっていうの、この野生児は?!」
そう言って今にも命に掴みかからんとする遥。
「まあまあ、遥ちゃん落ち着いて・・・」
「何ですって?!モチなんかついている場合じゃないわよ!こいつは、この風華学園生徒会執行部の永久名誉執行部長である珠洲城遥の名を忘れたって言うんですのよ?!」
「永久名誉執行部長なんて・・・いつの間にそんな風になってたの・・・?」
「全く、相変わらず雪之ちゃんも大変ねぇ〜・・・。
ところで、一体どうして珠洲城さんが月杜町に・・・?」
激昂する遥をなんとか落ち着かせた雪之は、遥とカウンターに座り、舞衣に事情を話す。
「ふ〜ん、そっか。確かに最近は生徒会急がしかったみたいだもんね〜。なつきもよく愚痴ってたわ。現に、今もまだ働いてるみたいだし・・・。」
「え、玖我さんが・・・?」
「うん、実はね今日あたし達、ここで待ち合わせしてたんだ。2時すぎにはこっちもバイト終わるから、それくらいの時間に来てくれって、言ってたんだけどね。」
「そうだったんだ・・・。だったら玖我さんには悪いことをしちゃったな・・・。わたしだけ早めに仕事あがらせてもらっちゃって・・・」
「何、また風華では厄介な事件が起こってるの?」
「ん〜、事件って言えば事件だけど、前の時のようなことじゃないの。」
“前の時のような”、というのは即ち「蝕の祭」のことを指す。あの時は豪華客船が真っ二つになったり、謎のミステリーサークルの中に倒れていた少女(舞衣のことである)や、山が大火事で消失したり、橋が謎の落雷によって落とされたり、某大国の軍隊が攻め込んできたりと、執行部部長である遥の頭を悩ます事件が立て続けに起こっていた。  
雪之と遥の注文を受け取った舞衣は厨房へと向かった。そうして雪之は遥に最近起こっていた事件のことについて話し始めた。
「今回の件は組織的な窃盗団による同時多発窃盗事件で、なかなか尻尾が掴めなかったんだけど、今日ようやく首領の確保に成功したの。だから、この事件は解決したんだけど、あと一つだけ別の問題が残っていてね・・・」
「別の問題?」
「うん。ホラ、この時期は新入生が入寮してくる時期でしょ?で、その新入生の入寮手続きなんかをしてたんだけど、一人だけまだ入寮していない子がいたの。」
「え、だってもうすぐ新学期始まっちゃうでしょ?なのにまだ入寮していないって・・・?」
「うん、今朝入寮してくる予定の子だったんだけど、なんだか遅れてるみたいで。恐らく玖我さんはその子のことを待ってるんじゃないかと・・・」
「全く、弛んでるわねぇ!学校始まる前から遅れてくるなんて、一体どういう神経してんのかしら?!」
「まあ、その人にはその人の遅れた理由があるんだろうから・・・」
そう言って雪之は遥をいなす。その隣りでは命が今日何杯目かのパフェをおいしそうにほおばっていた。  
雪之の注文したイチゴサンデーと遥の注文した激辛カレーパフェ(なんでこんなものがメニューにあるのかは不明)を運んできた。
「でも、本当にその子どうしたのかしら?まさか学園に来る途中で何かの事件に巻き込まれてたり、なんてことは・・・?」
舞衣が雪之と遥の会話に参加する。
「ん〜、そうじゃなければいいんだけど・・・」
「その子の出身はどこなの?」
遥が尋ねる。
「え〜っと、確か・・・」
雪之がその新入生の出身地を言う。
「ふむ、本州ね。となるとフェリーで直接風華町にやってくることになるわね。舞衣さんたちもそうだったんでしょう?」
「え、あ、はい、そうでした・・・ね。あははは・・・」
遥に聞かれ、舞衣は転入してきた日のことを思い出していた。あの時は散々な目にあった。穏やかなフェリーでの引越しだったハズなのに、漂流していた少女を拾い、挙句の果てにはその少女と拳銃をぶっ放す少女との戦いに巻き込まれ、最終的にはフェリーが真っ二つになり、海に投げ出されたかと思いきや謎のミステリーサークルの中で目を覚ますことになり、転校初日から執行部の厄介になるという・・・。
「だとすると、月杜町で迷っているという線はなくなるわね。まさか、風華町で迷子に・・・?でも風華の港から学園までは直通のバスなんかもあるから迷子になるハズもないし・・・。」
実に論理的にかつ的確な分析をする遥に、思わず面食らった表情をする舞衣。
「はぁ〜、珠洲城先輩って考えてる様は妙にきまってますね〜。伊達に執行部部長を名乗ってきただけありますねぇ〜。」
「舞衣、パフェおかわりだ!」
突然何の脈絡もなくパフェの追加をねだる命。
「ちょっと命、あんたそれで何杯目だと思ってるの?!」
「ん、えっと、1、2、3、4、・・・」
「ああ、もう数えなくていいから!!今日はもうそれくらいにしときなさい!夕飯食べられなくなるわよ?!」
「大丈夫だ、舞衣の夕飯はまた別腹だからな!」
「命ちゃん、よくそんなに食べられるね。良かったら、わたしのイチゴサンデー食べる?」
「おお、雪之!いいのか?!・・・ん、でも雪之も食べないとダメだぞ。食べないと元気が出ないからな!」
「ありがとう、命ちゃん。でも、これは食べていいよ。」
「本当にいいのか?!だったらもらうぞ!本当に・・・」
「ああ、もう雪之ちゃんってば、命をこれ以上甘やかせちゃうと・・・」
「・・・ん〜、だとするとフェリーに乗り遅れたってことかしら?全く、そうだとするとなんという間抜けな!これだから最近の若者は・・・ぶつぶつ」  
命を中心に盛り上がる(?)舞衣、命、雪之の3人と、1人遥が“最近の若い世代”の生活態度について愚痴を言い始めた時、リンデンバウムのドアベルが鳴り響く。入ってきたのは、腰まで伸びた綺麗な黒髪をなびかせたメガネをかえたスレンダーな少女。
「遅れてすまない、舞衣・・・って、なんだ?雪之に、珠洲城までいるのか?」
「あら、なつき。遅かったじゃない!例の遅れている子、ってのは来たの?」
入ってきた少女、なつきはカウンターの方に歩いてきて、雪之の隣りに腰掛けながら答える。
「いや、まだだ。待てども待てども来ないから、副会長の春妹(チュンメイ)にあとを任せてきた。入寮案内だけなら誰にでも出来るからな。それに、その新入生は彼女のルームメイトでもあるし。」
春妹というのは、舞衣やなつきのクラスメイト(高校3年になってから舞衣となつきの2人は同じクラスになっていた)で、実は舞衣とは3年間同じクラスメイトだったりもする。中国からの留学生で、クールな外見の通り実にクールな性格をしている。
「それでなつきは抜け出してきたわけね?」
「ん、まあ、あまり長時間お前達を待たせすぎるのも悪いと思ったからな。」
頬を赤らめながらそっぽを向くなつき。その様子がおかしく、思わず笑いそうになってしまう舞衣。その頃命は雪之からもらったイチゴサンデーを平らげていた。遥はまだ愚痴をこぼしていた。
「・・・そもそも今の総理大臣が問題なのよ。『感動した!』だかなんだか知らないけど、いつまでもいつまでもあいつらの言いなりになっているようじゃぁ・・・」
いつの間にか話は最近の政治のことになっていた。この調子ではなつきが店にやってきたことさえ気づいていない可能性が高い。

 

それから少しして、舞衣はバイトを終え、なつき・命の3人で月杜町のランジェリーショップへと向かった。一方の雪之と遥は風華町へと帰っていった。  
今回ランジェリーショップに来た目的は、命のブラジャーを買うことだった。最近になって、成長し始めた命の胸は従来のスポーツブラでは最早事足りなくなっていたのだった。また、舞衣自身もまた若干大きくなっていた。そこで、下着のエキスパートでもあるなつきにブラジャーを選んでもらおう、ということになったのだった。ちなみに、なつきの方は相変わらず成長していなかった。
「全く、大きければよいというものではない!」
「・・・?なつき、アンタ急にどうしたの?」
「別に、なんでもない。ただ、命が成長している、というのは分かるのだが、舞衣、お前はまだ成長する気なのか?」
「そ、そんなこと言われても成長しちゃうもんはしょうがないじゃない!」
「全く、一体何を食べたらそんなホルスタインのようになるというのだ?」
「ホルスタインって、・・・」
「なつき、お前も舞衣の料理を食えば胸が成長するかもしれないぞ!」
「うるさい!私はこれ以上大きくならなくていいんだ!大きすぎず、小さすぎない。こっちの方が断然美しいんだ!」  
聞いている周囲の方が恥ずかしくなるような会話をしながら、3人はランジェリーショップへとやってきた。ここはなつきの行きつけの店で、以前にも舞衣と命を連れてきたことがあった。その時は前風花学園生徒会長である藤乃静留が店長の代わりをやっていて一騒動あったのだが、それはまた別の話。(詳しく知りたい方はドラマCD『実録!『裏』風花学園史 第一章』を参考のこと(笑))  
「う〜ん、ここに来るとあの時のことを思い出すわね・・・」
「あの時は・・・、うん、いろいろあったな・・・」
「結局、舞衣はあの時どんなことをされたんだ?」
「「命は知らなくてもいいことよ。」」
「そ・・・、そうなのか?」  
二人にハモられ、それ以上追求することをやめる命。  
ランジェリーショップに入っていく3人。あの時と同様、その店のきらびやかな様相にウットリする舞衣と命。もうすっかり顔なじみのなつきはさながら取引先の重役のようなVIP対応で迎えられている。舞衣と命が店の雰囲気を楽しんでいる間に、なつきはもうすでに自分用のコレクションとして数種のランジェリーを買い込んでいた。  
「さて、まずは舞衣、お前のブラからだな。お前ほどのサイズになるとそうそう種類があるわけではないが、ここのブランドのものだと・・・」
「次は命、お前の場合は逆に小さすぎてあまり種類が無いのだが、あそこのブランドもので・・・」  
まさにランジェリーマニアとでも言うべきか、なつきは次々と様々なブラを持ってきては舞衣や命に試着をさせていく。この辺りの様子においては読者諸氏の逞しい妄想力にお任せすることにしたい。  
何はともあれ、かれこれ1時間はいただろうか、3人はランジェリーショップで買い物を済ませると、月杜町のデパートの1階に入っている有名な某カフェで休憩をとることにした。時刻は夕方の5時になろうとしていた。  
「良かったね命、ブラが買えて」
「ん、早速明日から詩帆や奈緒たちに自慢してやる!」
「自慢て・・・、それほどのものでもないだろう・・・」
「あははは、・・・って、ん?!」  
と、ふと路地裏に目を向けた舞衣が素っ頓狂な声をあげる。
「どうした舞衣?」
「えっと、いや、あそこ・・・」
「あそこ?」
「人が・・・、人が倒れてるぅうううううううう?!」
「「なんだって?!」」  
舞衣自身も驚きを隠せない事実に、なつきと命もハモって驚きの意を示す。  
舞衣の指差す先、路地裏のゴミ箱のそば、ゴミ箱のふたを抱えたまま仰向けに、こちら側に足を向けて確かに人が倒れている!!  
大慌てでそばにかけよる3人。倒れていたのは少女で、マントを羽織っており、オレンジがかった髪を後ろで三つ編みにしている。さながらアリの触覚のようだ。  
その見たまんまの様子に命は
「アリンコ?」
と思ったままの感想を漏らす。
「アリンコじゃなぁぁーーーーーーーーぁいっ!!」
と、その少女は半ば条件反射のように上半身を起こして叫ぶ。
「うおっ、びっくりしたぁっ!!」
「はいぃーーーーーーいっ?!」
突然の少女の叫びに思わず身構える舞衣となつき。しかし少女はその後再び目を回し、倒れてしまう。
「・・・一体なんだったの・・・?」
「・・・さぁ、分からん。・・・って、ん?!こいつの顔・・・」
何かに気づいたのか、なつきが少女の顔をじっくりと見る。
「ああっ、こいつだっ!!今日入寮予定の新入生だっ!!」
「え、この子が?!あれ、だって本州からフェリーでやってくる予定なら月杜町に来るハズがないって、さっき珠洲城さんが・・・」
「ああ、そのハズなんだが・・・しかし、こいつで間違いない。」
「このアリンコが例の新入生、というやつなのか?」
「だからアリンコじゃなぁぁーーーーーーーーいっ!!」
再び“アリンコ”という単語に反応を示す少女。
「・・・って、あれ?ここは・・・?」
「ふむ、目が覚めたようだな。」
「え〜・・・っと・・・、あなたたちは・・・?」
「あ、あたしたちはたまたま通りかかって・・・」
「わたしは風華学園の生徒会長、玖我なつきだ。お前は今日入寮してくるハズの新入生だな?」
「風華学園・・・そうだ!!あたしフェリーを降りて、風華学園に向かう途中で迷子になって・・・」
「・・・どうやったら風華町で迷子になって月杜町に来られるんだ・・・?」
頭を抱えるなつき。
「えっと、まあ無事に保護(?)できてよかったね。それよりも、なんであなたこんなところで寝てたの、おまけにゴミ箱のフタまで抱えて。」
「あぁ、それはですね・・・」
ぐきゅるるるるるるるるるるる〜〜〜〜・・・
と、少女が口を開くよりも早く彼女の腹の虫が盛大に鳴り響く。
「あ、あははは、そのぉ・・・、迷子になってる途中でお腹がすいちゃって・・・でも財布の中には10円玉しか入ってなくて、それでも何か食べなきゃって思って、仕方なくゴミ箱の中を覗いてみたんですけど、そこで力尽きちゃって・・・」
「アリンコじゃなくてネコだな・・・」
珍しくツッコム命。
「全く、何を考えているんだか・・・散々人を待たせておいて、本人は道に迷った挙句行き倒れか・・・わたしたちが見つけなければどうなっていたことやら・・・」
「まぁまぁ、なつき。それよりも、お腹すいているならあたしたちと一緒にデパートで夕飯を食べてかない、えっと・・・」
「あ、あたしの名前はありか、夢宮ありかです!」
「そう、ありかちゃんね。あたしは舞衣、鴇羽舞衣よ。今年から高校3年生になるの。それからこっちは・・・」
「命だ!」
「これでも一応高校2年。夢宮、お前の先輩だ。」
「えっと、生徒会長の玖我さんに鴇羽さんに、命さん・・・ハイ、覚えました!」
「んっ!!ありかとは今日から友達だな!」
「あはっ!入学早々に先輩のお友達ができちゃった!よろしくお願いしますね!」
「あはは、なんだかノリが命とそっくりね。」  
お互いに手を取り合う命とありか。と、同時に
ぐきゅるるるるるるるるるるるるるる〜・・・
命とありかの腹の虫が同時に鳴り響いた。
「ん、わたしも腹が減ったぞ舞衣!」
「全く、命はさっきリンデンバウムでいっぱい食べてたじゃない?」
「本当に、お前の頭の中には食べることと遊ぶこと以外のプログラムがインプットされていないんじゃないのか?」
「いんぷっと?それっておいしいのか?」
「・・・まぁいい。さて夢宮も行くぞ。少々歩くが、もう歩けないということはあるまい?」
「あ、はい、大丈夫です!食べ物が食べれるならどこへだって行きます!あ、それからあたしのことはありかって呼んでください。なんだか苗字で呼ばれると、こそばいくって。」
「じゃあ行きましょう、ありかちゃん!」
「ハイッ!」  
こうして4人は月杜町のデパートへと向かった。

―――風華学園、教会。  
リンデンバウムから帰ってきたアリッサと深優と奈緒。時刻は夕方、ちょうど舞衣たちがランジェリーショップを物色している頃。
「さてと、今日は特に“あっち”の仕事もないし、このまま教会の手伝いを続けますか。」
「奈緒さん、今日は午前中で終わりのハズでは?」
「ん、まぁいいじゃない?暇なんだから、教会の手伝いをしたってかまわないでしょう?」
「まぁ、確かに構いませんが・・・」  
深優が教会の扉に手をかけようとしたとき、それよりも前に教会の扉が開かれる。出てきたのはシスター紫子だった。
「あ、深優さんにアリッサちゃんに、それに奈緒さんまで。」
「どうしたんですか、シスター?どこかにお出かけですか?」
「ええ、ちょっと姫野理事長に呼ばれておりまして。すぐ済むと思いますので、深優さんとアリッサちゃん、奈緒さんで教会の留守と、私の娘の面倒を見ていてくれませんか?」
「了解しました。」
「任せてください。」
「バイト代、はずんでくださいね♡」
「では、お願いしますね、皆さん。」  
そう言って理事長宅へと向かうシスター紫子。奈緒たちは教会へと入っていった。

 

「次は、シスター紫子の能力・・・」
教会を出たシスター紫子の姿を、教会の上に立った金髪の少女が眺めていた。
「さあ、“祭”を始めましょう・・・」  
スッと姿を消す少女。  
それと同時に、月のそばに再び姿を現す赤い星・・・  
少女たちの戦いは、再び始まろうとしていた・・・

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