第二幕 倉田家の一族

解決編

「・・・ありがとうございます。」
「何、かの秋子さんの娘さんの頼みとあっちゃあ、断れないさ・・・。」
「あはは、ボクと秋子さんには血のつながりはないんだけどね。」
あゆは、倉田家の事件を担当していた刑事に、「ある人物」の過去について調べてもらっていた。最初は断られたものの、自分が水瀬秋子の娘だと名乗ると、刑事たちは人が変わったかのごとく親切になり、あゆの頼みごとも聞いてくれたのだ。
「うぐぅ、それにしても・・・。」
秋子さんって一体何者だろう・・・、と口にしかけて思いとどまるあゆ。
「これで、情報はそろったかな。」
あゆは、倉田家の食堂で待つ、真琴・舞・佐裕理のもとへ向かう・・・。

 

「さて、全員そろいましたね?」
翌日の昼、あゆは倉田家の食堂に事件関係者を前に立っていた。
「で、君は一体何を始めるつもりなんだい?」
倉田武男は、あゆに当然のごとくそのセリフを投げかける。
「今回の事件の真相を明らかにしたいと思っています。」
「なんだって!?君は犯人の正体が分かったと言うのかい!?」
「部外者である君が・・・?」
倉田良平は、胡散臭げな表情であゆを睨む。
「君は一体、誰の権限で・・・」
と小島信也が言うのを、刑事がさえぎる。
「彼女の発言に関しては我々が認めました。万が一、彼女の発言に関して問題があった場合、我々が全ての責任を負うことになっています。」
「・・・、そうですか。ならば私が反対してもしょうがないですね。」
あゆは、改めてこの警察の対応に驚いていた。全ては「かの水瀬秋子の娘」という肩書きが成した業であった。  
「では、改めて今回の事件に関しての真相を話したいと思います。」
佐裕理はかなり緊張した面持ちであった。彼女としては祖父を殺した犯人の正体は知りたい。しかし、その犯人は幼い頃より知っている人物なのかもしれないのであった。舞はそんな佐裕理のそばにいた。舞自身、昨日の真琴のセリフから犯人が誰なのかは分かっていた。しかし、動機が分からず、結局佐裕理にはまだその真実を話していなかった。

 

「今回の事件、」
あゆは語りだした。
「まず問題になってくるのは動機です。殺害された倉田才蔵さんは余命1週間でした。こう言ってはとても失礼なことになりますが、才蔵さんはどうも昔いろいろとやってきていたるところで恨みを買っていたようですね・・・。しかし、いくらそれだけの動機があったとしても、余命1週間という人を殺そうなんて考える人がいるでしょうか?とてもじゃないけど、そんな人はいないでしょう。ですから、この事件の動機として『怨恨』の可能性は否定されるわけです。」
「確かに。では、あゆ君、君は今回の事件の動機はなんだと考えるのかね?」
八坂征一はあゆに尋ねる。
「『怨恨』でなければ、『財産』ですか?」
飯塚奈緒が代わりに答える。
「では、動機が『財産』だったとすれば、誰が犯人として考えられるでしょうか?」
今度はあゆが逆に皆に尋ねる形をとった。
「ん〜と、まず佐裕理さんのお父様、武男さんは犯人じゃないわよね〜。だって財産は確実に貰えるんだから、殺す必要なんてないもの。」
と真琴。
「当たり前だ!!何故私が親父を!?」
武男が答える。
「その通りだよ真琴ちゃん。武男さんは何もしなくても遺産がもらえる立場にあったんだから、『財産』目的で殺人を犯すはずもなく、当然それ以外の動機で殺人を犯す必要性もない。したがって武男さんはシロだよ。」
武男は、ホッと息をつく。
「考えられるのは良平さんかな?だって、おじいさんが『遺産は武男さんに全て譲渡する』、なんて遺言残したら自分には遺産が一切入ってこなくなるもの。だから、遺言が残される前に殺した、なんて考えられるんじゃない?」
と真琴。普段の真琴からは考えられないほど鋭い意見を述べている。
「なっ、馬鹿な!?私は殺人なんて・・・!!」
良平は猛然と反論する。
「残念だけど、良平さんも犯人じゃないよ。そもそも良平さんには例の『密室が作れない』んだから犯行自体が不可能なんだ。」
とあゆがあっさり真琴の考えを否定する。
「だったら、犯人は誰なの?だって、弁護士さんにしても主治医さんもメイド長の人も『財産』とは関係ない人たちでしょう?」
「うん、そうだね。だから動機として『財産』もありえないんだ。第一、皆さん人を殺してまでお金を手に入れようなんて考えるほど切迫した人はいないよ。」
「確かに、伯父様もお父様も小島さんも八坂さんも、それなりの地位を持ってますし・・・。飯塚さんなんておじい様に雇われている方ですから、その雇い主を殺すなんてありえないですし・・・。」
と佐裕理。
「だったら、一体動機は何なんだい?『怨恨』でもない、『財産』でもないとすれば・・・。」
と武男。
「動機は・・・『怨恨』・・・なんですよ・・・。」

一同は一瞬何を言われたのか理解できなかった。
「動機は・・・、何だって?!」
良平は皆の意思を代表するかのようにあゆに尋ねた。
「動機は『怨恨』って言ったんです。」
「しかしあゆ君、君は真っ先にその説を消したじゃないか?!」
と八坂。
「先ほど否定した『怨恨』とは、才蔵さんを『殺したい』という『怨恨』です。真の動機は、才蔵さんに『生きていてもらいたくなかった』、『死んでもらいたかった』、だから結果的に『殺した』ということなんです。」
「なん・・・、だって・・・?それは一体どういうことなんだい?」
武男は訳が分からない、といった風で尋ねた。
「・・・、10年前あるところに一人の子供がいました・・・。」
あゆは何の前触れもなく、突然語りだした。  
この語りだしに、一同は首をかしげるが、ハッと気づき「ある人物」に視線を向ける・・・。
「その子供は両親と3人暮らしでした。」
あゆはそんな皆の様子を気にも留めず、語り続ける。
「両親は自営業で、小さな会社でしたが家族3人暮らす分には申し分ない稼ぎを得ていました。3人は幸せに暮らしていました。  
しかし、そんなある日、両親の元にある仕事の依頼が来ました。その仕事が上手くいけば、さらに裕福になる。そう考えた両親はその依頼を受け、さらなる仕事に励みましたが、それはある人物の策略だったのです。その仕事は失敗するように企てられていました・・・。  
結局、両親は借金をすることになり、知り合いでよく仕事の面倒をみてくれていた倉田才蔵さんを頼りました。しかし、それこそが倉田才蔵さんの狙いだったんです。  
程なく、彼らの会社はつぶれ、借金も膨れ上がり、どうしようもなくなった彼らは子供と共に死ぬことを決心しました。  
そして、一家心中・・・。しかし、子供のほうは発見が早く助かったそうです。その子供はその後、倉田才蔵さんに引き取られ、両親の会社は結局倉田財閥に吸収されることになりました。全ては倉田才蔵さんの目論見通りでした。」  
そこまで話してあゆは一旦間をとった。もはや皆の視線は「ある人物」のほうに向いている。  
再び、あゆは口を開いた。
「その子供は、そういった事情を最初の内こそ知らなかったのかもしれませんが、才蔵さんが一線を退き、屋敷でずっと暮らすようになってからはそういった事情を知る機会があったことでしょう。しかし、その子供はそのことで安易な『復讐』に走ろうとはせず、ひたすらにこの屋敷で働いてきました。ひょっとすると、いつか殺す機会を窺っていたのかもしれません。  
ですが、そんなある日才蔵さんが余命いくばくもないことを知らされるのです。そんな人を殺す理由などなく、彼の最後の日が来ることをただ待ち続けたことでしょう。  
そんな彼のもとに、彼の息子さんたち、武男さんに良平さんが集まってきます。それで才蔵さんは過去してきたことを思い、今の自分の幸福を思い、『しかし、ワシもこの歳まで散々なことをやってきた。死んでも極楽には行けんじゃろうて・・・。しかし、それでも今こうして家族全員に看取られて死ねるのは、やはり幸せなことじゃな・・・。おまけに佐裕理の親友にもきちんと挨拶できた・・・。もう満足じゃよ、この罪深きワシには幸せすぎる最後じゃよ・・・。』と言います。  
そのセリフに、そのかつて両親に目の前で死なれたその子供は憎しみを覚えたんです、『自分の両親は何一つこと悪いことをしていなかったのに、悲惨な死に方をした。なのに、散々ひどいことをしてきたこの男は、幸せな死を迎えようとしている・・・。こんな理不尽なことあってたまるものか・・・。両親や自分の一生分の幸せを奪っておきながら、自分だけ幸せに死ぬなんて・・・。こんなやつに1週間もの幸せを与えてなるものか、せめて両親の苦しみを味わって死んでいけ』って・・・。」

 

一同はシンとなった。皆は視線は「ある人物」に向けたまま、耳はあゆの語りを聞いていた。  
『殺したかった』のではなく、『生きていて欲しくなかった』・『死んでもらいたかった』。その二つの言葉が示す、微妙なニュアンスの違い。これこそが、この余命1週間の人間を殺すに至った真の動機なのだった。
もはや、疑いようはなかった。「その人物」こそ犯人に違いなかった・・・。
「そう、ですよね、飯塚奈緒さん・・・?」
あゆは、静かにその名を告げた・・・。  

 

「・・・、私が犯人だといつ気づいたの?」
飯塚奈緒は、もはや否定もせずあゆに尋ねる。
「否定、しないんですか?」
とあゆ。当然、反論がくるものだとあゆは考えていたのだから、その質問は当然のものだった。
「あれだけ、私の心情を言い当てられたら、言い返す気力もなくなるわよ・・・。」
と飯塚は答える。
「・・・、それはメイドのお姉さんと話してたときのセリフから気づきました。あなた、メイドさんの人たちと話している時に、『才蔵様は布団の上から刺されておりましたから、犯人は返り血は浴びなかったものかと』って言ってたそうですね。
でも、このセリフあなたの口から出てくるはずないんですよ。なぜなら、才蔵さんの死体を実際に見て、『死体が布団の上から刺されていた』ことを知っていたのは、八坂先生、小島さん、武男さんと、犯人だけなんですから・・・。」
「なるほど、ね・・・。とんだ名探偵さんね・・・。」

 

飯塚奈緒は、何の抵抗も見せず、警察に連行されていった。彼女の瞳にはもはや何の生気も感じられなかった・・・。

 

「あゆさん、ありがとうございます。・・・なんだか未だに飯塚さんが犯人だ何て信じられませんが・・・。」
「いえ、そんなこと・・・。今回はたまたま運が良かっただけです。」
「運も実力の内・・・」
と舞が言葉を添える。
「そうだよあゆあゆ!やっぱあゆあゆは名探偵だよ!真琴もワトソンとして鼻が高いよ!」
「真琴ちゃん、調子よすぎだよ。煽てたって何も出ないよ?何を企んでるの?」
「えっ!?べっ、別に今月はお小遣いが厳しいからあゆあゆに肉まんをおごってもらおうなんて考えてないよ!?」
真琴はしどろもどろに思っていることを全部ばらす。
「あはは〜、全部自分でばらしちゃってますよ、真琴さん?」
「あう!?」
「あはははは、どーせそんなことだろうと思ったよ〜!でも真琴ちゃん、忘れちゃ駄目だよ、ボクだってお金なくて昨日お姉さんに立て替えてもらったでしょ?」
あゆは、胸をそらして答える。
「あう〜〜〜、そうだった・・・。そのせいで昨日は真琴まで食い逃げ犯にされたんだった・・・。」
「だったら、私がおごってあげる。佐裕理を助けてくれたお礼。」
「あはは〜、だったら佐裕理もおごってあげますよ〜。今から肉まん買いにいきましょう!」
と舞に合わせて佐裕理も答える。
「えっ!?本当!?やった〜〜〜!!肉まん、肉まん〜〜!!」
「あ〜〜、だったらボクもたい焼きがいいな〜!」
真琴とあゆはまるでおもちゃをもらった子供のように大はしゃぎしている。

 

そんな様子を見ながら、
「ひょっとしたら、あゆさんになら『例の事件』を・・・」
誰にも聞こえないような声で、佐裕理がつぶやく。

 

あゆ、真琴、舞、佐裕理の夏休みはまだ始まったばかり・・・。

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