Forget Memories〜The Place She Should Get Back

第一章

少女が目を覚ましたのは川のほとりだった。  
少女は辺りを見渡した。自分の寝ていた場所は緑の草の上で、川から少し離れたところには森が広がっている。川の向こう岸はずっと先のほうにあるらしく、全く見えない。川も奥に行くほど深くなっているようだ。  
そんなことよりも、少女はまずなせ自分がこんなところにいるのかが分からなかった。  
こんな場所なんて見た覚えも、来た覚えも無い。なぜこんなところに自分はいて、おまけに寝てしまっていたのか・・・?  
そもそも待って・・・。  
自分は誰・・・?!  
思い出せない・・・。  
自分が誰で、ここはどこなのだ?!  
少女は勢いよく立ち上がった。今のじぶんの置かれている状況がはっきりしてくると、急に不安に襲われたのだ。  
冗談じゃない!こんな知らない場所で、一体私はどうしたら・・・。  
もう一度辺りを見渡してみる。周りは森と川が広がるのみで、人の気配が全くしない・・・、いや、今一瞬だが、森の中から音がしたような・・・。草を踏みしめる音。人かもしれないし、違うかもしれない。  
ガサッガサッ。  
だんだん音が大きくなってくる。こっちに向かってきている・・・?  
少女はとっさに身構えた。  
ガサッ!  
姿を現したのは、スラッと背の高い、年は16,7歳くらいの美青年だった。背にはかごをかるっていて、その中から野草がいくつかのぞいている。その青年は、少女に気づくと、
「あれ、君、こんなところで何をしているんだい?」
と、人懐っこい顔で話しかけた。
「・・・、あんた誰・・・?」
少女は依然、警戒態勢をとっている。
「あはは、怖がらなくてもいいよ。そうだね、僕は陽太っていうんだ。この森の向こう側の村に住んでる。まあ、森と言ってもそんなに深いわけじゃないんだけどね。  
んで、君の名は?君も、旅の途中でこの川に寄ったクチかい?」
「・・・、旅の途中・・・?」
少女は何を言われているのか分からない、といった表情で青年を見つめる。
「あれ、違うのかい?僕はてっきり・・・」
「分からないの。私が誰で、どうしてここにいるのか、全く思い出せないの!!」
「・・・、記憶喪失・・・か。そっか、それは大変だな。
うん、よし!それなら君、僕らの村においでよ。記憶が戻るまでは僕が面倒を見てあげるよ。それでいいかい?」
「・・・えっ?!」
突然の青年の申し出に、少女は戸惑ったが、こんなところで何も分からず一人ぼっちで投げ出されたままであるよりかは、はるかにましな気がしたので、その申し出を受けた。

 

村に戻る途中の森の中で、少女はこの場所がどんなところであるかを聞いた。
「ここはね、多くの人たちが新たなる場所を見つけるためにやってくる場所なんだ。あの川の向こう側、あちら側に行く為に皆ここにやってくるんだけど、見ても分かるとおり、奥に行くほど深くなっていて泳いでわたるには危険な川なんだ。だから船を使うしかないわけだけど、その船は不定期に向こう側からやってくるのみ。1週間に2回来る時もあれば、1ヶ月経っても来ない場合もある。また、その船に乗るにしても、この村の長の許可がなくちゃならない。だから、多くの旅人達がこの村で一時暮らすことを余儀なくされるんだ。」
「お兄さんも旅人だったの?」
「あはは、そうだね。もともとは僕もそうだったんだ。だけど、その内、この場所が居心地が良くなってね。すっかり住み着いちゃった、というわけさ。」
「ふ〜ん、そうなんだ・・・。」
「さて、まず村に着いたら君のことを長に知らせなくちゃね。そこで、記憶を取り戻すまでの仮の名前をもらおう。いつまでも名前なしじゃあ、呼びづらいからね。」  
陽太の言ったとおり、その森はそんなに深くなく、もう村の入り口が見えてきた。  
そこは、本当に村と呼べるようなもので、昭和初期の日本、という雰囲気だった。道は舗装されてなく、街灯も全く無い。下町、という言葉が最もぴったりくるだろう。

 

少女は、陽太に連れられ、村で一番大きな家、長の家にやってきた。
「長〜、新しい旅人を連れてきましたよ〜。」
陽太は、門の前でそう叫ぶと、中から、「入ってきなさい」という言葉が返ってきたので、門を開け、中へと入っていった。少女もその後について行く。  
長い渡り廊下を通り、辿り着いたその部屋はゆうに20畳はあろうかという広さの部屋だった。その奥にどっかりと座った、老人、彼が長なのだろう。あごからは白いひげが伸びていて、頭も白髪だった。それでいて目は鋭く、少女が入ってくるのを見ると、じっと見極めるように、その少女の様子を見ていた。
「長、彼女とは、先ほど僕が山菜採りに行っていた時に川で出会いまして、どうも記憶喪失のようなんです。それで、彼女に村に住む権利を与えてあげて欲しいと同時に、仮の名前ももらえたら、と思いまして。」
と陽太は長に向かって言った。長は、彼の言葉を聞いているのかいないのか、じっと少女の方を見たままだった。  
その様子に耐えられなくなった少女は、
「何、私の顔に何かついてるの!?」
と、思わずきつい調子で言ってしまった。
「お、おい君、長に向かってなんてことを・・・」
「だって、さっきからそこのおじいさん、私の顔を見てばっかりなんだもん。ずっと見られっぱなし、ってのはあんまりいい気がしないわよ。」
なおも、少女が文句を言おうとした時、長がふいに口を開いた。
「・・・素華・・・。素直な華、と書いて素華・・・。」
「えっ・・・?!」
少女は、突然の長の言葉に呆気にとられてしまう。
「素華、それがこの娘の仮の名前なのですね。よかったね、君。素華、だなんてなかなかいい名前もらえて!」
「えっ、それが私の名前・・・?!」
「そうだよ、これから君は記憶を取り戻すまで素華だ。」
「う〜ん・・・、確かに可愛い名前かもしれないけど、なんだかな〜・・・」
少女はなんとなく釈然としない感じがしたが、贅沢はいえないかと思い直し、長に丁寧な礼を言った後、長の屋敷を後にした。

 

少女をしばらく預かることになった陽太は、今日の夕飯を買ってくると言って、少女を自宅に残して出て行った。  
一人になった少女は改めて、自分のことを考えてみた。なぜここにいるのか、自分は誰なのか・・・。  
しかし、その答は見つかるはずも無く、そういえばお腹がすいたなと思いながら、陽太の帰りを待つことにした。

 

ただ、なんとなくひっかかることはあった。  
自分は本当に旅をしてきたのか?  
自分には帰るべき場所があったような気がする。  
でも、そこがどこなのか、全く思い出せない。

 

「戻らなくちゃ、その場所に・・・」

 

はっきりとした意思で、少女はそう思った。

第二章

空想具現化へ