クリスマスの歌―神さまのBirthday―

第五章


「「「「雪歩、誕生日おめでとおおおおおおおおおっ!!!」」」」  
12月24日、765プロの会議室ではパーティーが開かれていた。クラッカーと、雪歩の誕生日を祝う言葉で始まったこのパーティーの主賓はもちろん雪歩。そして、このパーティーの司会進行役は伊織。クリスマスイブパーティーも兼ねたこのパーティーは、伊織の指揮のもと準備が進められた。会議室には色とりどりのラメにセロファンの張られたライト、天井まで届く巨大なクリスマスツリー(どうやって会議室に入れたかは不明)、5人で手をつないでようやく一周できるほどの大きさのクリスマスケーキ(これまたどうやって会議室に入れたかは不明)。これら全てが伊織のポケットマネーから出ているというのだから驚きを隠せない765プロの面々。  
パーティーではまず、雪歩へのプレゼント渡しから始まった。  
まず最初にプレゼントを渡すのは春香とやよい。2人の手には大きな箱が載っていた。
「雪歩、これが私とやよいからのプレゼントだよ!」
「春香さんと2人で頑張って作ったんですよ!」
「これ、今すぐ開けていいの?」
「うん、というか今すぐ空けてもらわなきゃ意味ないかも。」
「?…なんだろう……うわ〜、これは…」  
雪歩が箱を開けると、中からはケーキが出てきた。周りにはイチゴが載っていて、真ん中には“雪歩さん、誕生日おめでとうございます!”と拙い字で書かれたチョコの板。それに雪歩の年の数だけ載った小さな赤いろうそく。
「これ、春香ちゃんとやよいちゃんが作ったの?」
「うん、そうだよ!」
「私がチョコの文字を書いたんですよ!!」
「そっか、雪歩の誕生日ケーキが無いと思ったらこういうことだったのか。」  
律子が会議室を見回してつぶやく。
「さて、雪歩の誕生日ケーキが出てきたところでバースデーソングを歌うわよ!」  
伊織の号令とともに、皆どこに持っていたのかマイクを取り出す。すると、そのタイミングに合わせてライトが落ち、ろうそくに火が灯っていく(暗さに乗じて高木がろうそく1本1本に火をつけていっているだけなのだが)。すべてのろうそくに火が灯ると同時に音楽が流れ出す。その音楽に合わせてバースデーソングを歌う765プロのアイドルたち。歌が終わると、雪歩は両手を合わせて目をつむり、何かつぶやいてから一息でろうそくの火を吹き消す。ろうそくの火が全て消えると、再びライトがついた。
「「「「雪歩、誕生日おめでとおおおおおおおおおおっ!!」」」」  
ここで再びクラッカーの音と共に歩の誕生日を祝う皆。  
雪歩は恥ずかしがりながらも嬉しそうな表情を浮かべている。  
それから残りの皆がそれぞれ用意してきたプレゼントを雪歩に渡していく。  
伊織からは日本全国から集めてきた高級なお茶っ葉のセット。律子からは高級湯呑、あずさからは雪うさぎの携帯ストラップ、千早からは雪歩のマイ詩集にピッタリあうサイズのブックカバー、亜美・真美からは2人とお揃いの髪飾り、美希からはお茶っ葉のおにぎり、小鳥からは毛糸の手編みの帽子、ヨウカからはミトンの手袋、高木からは高級お茶菓子のセットがそれぞれ手渡された。
「あ、それからこれはヨウイチプロデューサーからのプレゼント。」  
ヨウイチは真のドラマ撮影の付き添いで今ここにいない。そこでヨウカがヨウイチから雪歩への誕生日を預かっていたのだ。
「これは……毛皮のコート…」
「うわっ、これすっごい高いやつじゃないですか?!」
「兄→ちゃん、奮発したね〜」
「プロデューサー、ありがとうございます…」
「それから、これは真から。」  
次に律子が真から預かったプレゼントを雪歩に手渡す。細長い包みでつつまれていて、リボンには手紙が挟まれていた。その手紙には“ハッピーバースディ、雪歩。ゴメンね、直接祝えなくて。 真”と書かれていた。
「真ちゃん……」  
雪歩はその手紙を両手で包み、ギュッと胸の前で握りしめる。それから包みを開ける。中から出てきたのは…
「うわ…」
「ふえ〜…、まこちんやる→!」
「ふ〜ん、真ってばやるじゃない。」  
それは手編みのマフラー。赤と白のストライプ模様で、ご丁寧に“Y.H”のイニシャルも縫い付けてあった。
「真って、見かけによらずこういうのが上手いわよね〜。」  
律子が感嘆の声を洩らす。
「けっこう丁寧に編みこまれてるわね〜。」
「あ〜〜、雪歩だけいいな〜、真クンの手編みのマフラー!美希も欲しいよ!!」
「星井君だけに、かな?」  
高木の華麗なるダジャレには誰も突っ込まず、皆は真の編んだマフラーに釘付けだった。
「お〜い、君たち…」
「真ちゃん、ありがとう……」  
雪歩は早速そのマフラーを首に巻き、そのマフラーを愛おしそうになでるのだった。
それから春香とやよいの作ったケーキを律子が切り分け、皆で食べる。その後しばらくは皆それぞれに雑談をはじめ、パーティー料理に手を伸ばしたりしていた。 もらったプレゼントを整理していた雪歩に春香が尋ねる。
「雪歩、ろうそくを吹き消す前に何をお願いしたの?」
「え?」
「ろうそくを吹き消す前に何か願い事をして、その後で息継ぎせずに一息でろうそくの火を全部吹き消すことが出来れば願いが叶う、だよね雪歩?」  
春香はウインクしてみせる。
「えっと……」  
雪歩は言おうか言うまいか迷う。
「真のこと?」
「あ…」  
春香に正解を言われ、顔を赤くする雪歩。それからゆっくりと肯定の意味で頷いてみせる。
「そっか!雪歩の願い、きっと叶うよ!」  
春香は自信を持ってそう告げる。その眼には寸分の疑いもない。
「どうして、そう思うの?」
「だって、」  
春香は雪歩に背を向け、窓の外を見る。外ではしとしとと雨が降っていた。
「今日は、クリスマスイブ!奇跡が起こる夜なんだよ!」  
春香は首だけ雪歩に向けてほほ笑む。
「春香ちゃん……そうだね、ありがとう春香ちゃん。」


 
「ハイ、カ〜ット!!今日の撮影はここまでです、皆さんお疲れ様で〜す!」
「「「「お疲れ様でした〜!!」」」」  
ここは東北の某所、現在カグラTV主催のTVドラマが撮影されていて、ちょうど今本日の撮影スケジュールが終了したところだった。  
このTVドラマには765プロから真が出演している。真の演じる役はヒロインに惚れられた学園の先輩。と言っても、男役というわけではなく、れっきとした女役で、である。いわゆるそういう作品というわけである。
「真、お疲れ様!」  
カメラマンはディレクターたちと話していた真のもとへヨウイチがやってきた。真のプロデューサーは本来律子であるのだが、こういう泊まり込みのロケなどにアイドルを送り出す場合には大概ヨウイチが付いていくことになっている。それは足の問題もあるし(ヨウカや律子は免許を持っていない)、万が一の時のボディーガード的な役目も担うためである。
「あ、お疲れ様です、プロデューサー!!」
「話はもう終わったのか?」
「ハイ、大丈夫です。」
「そうか、それならホテルへ戻ろう。  
それから真、ホテルへ戻って着替えたらホテルの最上階のレストランへ来てくれ。せっかくのクリスマスイブだからな、ディナーを予約してある。かまわなかったよな?」
「プロデューサーとディナーですか?!ハイ、全然かまわないです!!」  
2人は駅の近くの高級ホテルに部屋を取っていた。当初は普通のビジネスホテルに泊まる予定だったのだが、伊織の手配でこうなった。現場からホテルまでは車で往復している。  
ホテルの部屋へと戻った真は、着替えを済ませてから最上階へと向かった。レストランに入って名前を告げると、ウェイターに案内されヨウイチの待つ窓際の席へと通された。
「お疲れ様、真。」
「お疲れ様です、プロデューサー。」  
高級感あふれる内装に内心怖気づいている真。真は父親に内緒で買ったドレスを持ってこなかったのを激しく後悔した(今真が着ているのは普段着よりは幾分かは高価であるというだけの普通の服装だった)。
「な、なんだかボクすごく場違いな気がします…」
「そんなことないさ、真は売れっ子アイドルなんだぞ。胸をはっていいんだ。  
メニューはもう注文してあるが、何か欲しいものがあれば好きなだけ頼んでもらってかまわないぞ。」  
そう言っている間に、前菜が運ばれてきた。こういう場所でのマナーはある程度頭に入っていた真だったが、いざこういう場所に来たのは初めてで戸惑ってしまう。ヨウイチの見よう見まねで次々運ばれてくる料理を口に運んでいった。
「ここ、すごく高そうですけど、これも伊織の手配なんですか?」  
ふと気になったことを訪ねる真。
「いや、これは俺から真へのクリスマスプレゼントだ。嫌だったか?」
「いえ、そんなことは全然ないです!ありがとうございます、プロデューサー。でも、大丈夫なんですか…?」
「アハハハ、心配するな!まあ来月の給料前借りしないと今月末はちっとキツイかもしれんがな。」
「ちょっと、プロデューサー!そんなの全然大丈夫じゃないじゃないですか!」
「まあまあ気にするな、冗談だよ。そんなことは気にせずどんどん注文していいんだぞ。今日はいつも以上に動いていたみたいだからな。明日以降もさらに忙しくなるだろうから、しっかりと食べて体力つけてくれよ。」  
このヨウイチのセリフには嘘が入っていた。来月の給料を前借りしなければならない、というのは本当のことだった。
「本当にいいんですか?……まあ、年末でキツくなったらボクを呼んでください!いつでも料理くらいは作ってあげられますよ。」  
ちょっと頬を染めながらうつむき加減にそう言う真。その真の表情を知ってか知らずか、ヨウイチは笑顔で答える。
「そっか、じゃあそん時は頼むな、真。」
「ハイ!」  
真もまた満面の笑顔で答える。
「あ、そうだ。クリスマスプレゼントで思い出したんですけど……」  
そう言いながら真は持ってきていた手提げカバンに手を入れ、リボンで包装された包みを3つ取り出した。
「これがあずささんから、これが律子から、そしてこれが美希と亜美・真美からのクリスマスプレゼントです。」
「ん、あずささんと律子と美希と亜美・真美から?」
「ハイ、伊織の案なんですけど、ボクらからそれぞれの担当プロデューサーに普段のお礼を兼ねてということでプレゼントをしようって決まったんですよ。」
「ああ、なるほど。それであいつらから…」  
ヨウイチはそれぞれのプレゼントの中身を確認する。
「あずささんからはネクタイピンか…」
「へ〜、トラの形のピンですね。」
「俺が寅年だからかな。」
「あ、そうなんですか。」
「うん、っとそれから律子からは…メガネか!」
「メガネ?!プロデューサーって目が悪いんですか?」
「ああ、律子と同じくらいの視力だな。」
「そうだったんですか?!じゃあ普段はコンタクトを…?」
「んにゃ、してない。」
「ええっ?!じゃあどうして普段メガネもコンタクトもしてないんですか?!」
「メガネは俺には合わないし、目にものを入れるなんて怖くてできるか。」
「…プロデューサー……」
「以前そのことを律子に話したことがあったんだ。たぶんそれでメガネなんだろう。」
「ふ〜ん…ねえ、プロデューサー、今すぐメガネつけてみてくださいよ!」
「恥ずかしいから嫌だ。」
「そんな恥ずかしがるようなことじゃあないじゃないですか!」
「へ〜、美希と亜美・真美からはブックカバーか〜…」
「ちょっと、話逸らさないでくださいよ〜!」
「てっきり美希のことだからおにぎりか何かだと思ったんだけどな。」
「プロデューサー……」  
それから真が何度言ってもヨウイチはメガネをかけようとしなかったので、真は諦めた。
「もういいです…
…っと、そうだ。それから、えっと…、せっかくなのでボクからもプロデューサーにプレゼントを用意してきました。」  
そう言って再び手提げバックに手を入れた真は毛糸の青一色の手編みのマフラーを取り出した。
「えっと、出発前に思いついたので包装とかはしてないんですけど…」
「出発前にって、それじゃあこっちにきてから編んだってことなのか?」
「ハイ、だからところどころ雑になっちゃいましたけど…」
「いや、それにしても2、3日でこれだけ編めるなんて、スゴイじゃないか!ありがとう、大事にするよ。」
「へっへ〜…、どういたしまして。」  
頭をかきながら照れた表情を浮かべる真。そういう時の真の口は決まって猫口“ω”になる。普段のカッコよさをアピールしている時の真とは違う、身内だけの知る真のかわいらしさだった。  
ヨウイチは真からもらったマフラーを大事に折りたたんでカバンにしまうと、時計をチラっと見て、「そろそろか」とつぶやく。  
真が「何か言いましたか、プロデューサー?」と尋ねようとした所へ、ヨウイチの方から口を開いた。
「そうだ、真。実はね、お前たちが俺たちにプレゼントを用意してくれていたみたいに、俺、ヨウカ、小鳥さん、社長、律子からお前たちにプレゼントがあるんだ。」
「え、プロデューサーたちからですか?!」  
真が驚くのと同時に、ウェイターが何か大きな包装された箱を持って彼らの席にやってきた。
「ヨウイチ様、お荷物が届いております。」  
ウェイターはそう言うとその大きな箱をヨウイチに渡し、立ち去っていく。
「ちょうどいいタイミングだったね。これが、俺たちからのプレゼントだよ。」  
真はその大きな箱を開けて中を見て、また驚くことになるのだった。


 
「さて、それではおまちかね、プレゼント交換の時間よっ!!」  
伊織の号令で、皆は一旦それぞれの会話を中断し、伊織に注目する。
「皆、各々準備してきたプレゼントを出してちょうだい。そして、テキトーに円状に並んでね。そうそう、それじゃあ今から音楽を流すから、その音楽が流れている間、プレゼントを時計回りに回していってちょうだい。音楽が止まったところでストップ、その時に持っていたプレゼントが自分がもらうプレゼントってことで!皆分かったかしら?」
「「「「はーい!」」」」  
765プロのアイドルたち、それにヨウカ、小鳥、高木らも加わって円状に並ぶ。並び終えたのを確認した伊織は音楽をスタートさせる。音楽は伊織のソロ新曲「フタリの記憶」だった。皆は自分の持っていたプレゼントを左隣の人に渡し、自分は右隣の人からプレゼントをもらう。それを音楽が止まるまで繰り返す。  
1番が終わったところで音楽が止まり、全員の動きが止まる。
「さて、それではプレゼントを開けてみてくださ〜い!皆さん、誰のプレゼントをもらったかしら〜?」
「あ、私はウサギさんのぬいぐるみです〜。伊織ちゃんかな、ありがとう!」
「私はお茶セットですね、これは萩原さんからね。」
「「これ、楽譜……?千早姉ちゃんのだよね、絶対…」」
「あらあら、私はチュッパチャップスですね。亜美ちゃん、真美ちゃんからかしら〜。」
「うっ…、私のはくしか…。これは、三浦君からかね。なんだか私には似合わないものが来てしまったな…」
「社長〜〜っ!!演歌のカセットテープってひどいの〜!美希、こんなの欲しくないの〜!」
「そーいうあんたのプレゼント、サンタのチョコ入りおにぎりって何なのよ!」
「わ〜、私のは時計ですよ〜!これ、律子さんからのですよね!ありがとうございます!!」
「あら、私のはクッキーですね。春香ちゃんのプレゼントかな?」
「これ、写真集…?ん、よく見たら小鳥さん秘蔵の小泉一月の写真集じゃないですか!」
「うっう〜!私はネックレスですぅ〜!ヨウカさん、ありがとうございますぅ〜!!」
「あら、私のはオセロセット…?やよい、あんたけっこう奮発したのね〜。ありがとっ!」  
皆がそれぞれにもらったプレゼントを開けて一喜一憂している。その皆の様子を見ながら、「そろそろかしら」とつぶやく伊織。コホンと咳払いを一つして、
「さて、プレゼント交換もすんだところで、私たちからプロデューサーさんたちへのプレゼントがありま〜すっ!!」
「えっ、アンタ達そんなもの用意してたの?」
「あらあら、何かしらね?」  
律子はあずさと千早の方をチラリと見やる。あずさと千早は目を逸らす。
「まずは私と真と雪歩から律子へ!」
「さてさて、何が入っているやら…ん、これメガネケースとメガネ拭き?」  
包装された包みから出てきたのは、見るからに高級そうなメガネケースとメガネ拭きだった。
「この間律子言ってたでしょ?メガネケースが壊れちゃったって。」
「だから、私たちがお金を出し合って買ったんですよ。メガネ拭きは絹製だそうですよ。」
「このメガネケースもけっこう高級品みたいね〜…。ありがと、早速明日から使わせてもらうわ。」
「にっひひ♪バンバン使っちゃいなさい!」
「律子さんに喜んでもらえて良かったです〜。」  
そして待ってましたとばかりに春香が持っていたマイクに向かって叫ぶ。
「それでは、次は私とやよいと千早ちゃんからヨウカさんへのプレゼントです!」
「これは…しおりかしら?」  
かわいらしい封筒に入れられて渡されたプレゼントは手作りのしおり。そこには手書きで3人からのメッセージやイラストがかかれていた。
「ハイ、私たちの手作りですっ!」
「ヨウカさんはよく本を読まれると聞いたので。」
「あっ、はは、まあ確かに…」  
本は本でもヨウカが主に読んでいる本はライトノベル。律子や小鳥、ヨウイチはそのことを知っているが、それ以外のメンバーは知らない。それ以外のメンバーはヨウカがいつも休み時間に熱心に読書をしている姿を見たことがあるのみで、その内容が何であるかまでは知らないのだ。
「うん、私も明日から、いいえ早速今晩から大事に使わせてもらうわね。ありがとう、3人とも。」  
ヨウカはその心のこもった手作りのしおりを大事そうにバックにしまう。  
ヨウカがバックにしおりをしまったところで、今度は律子が持っていたマイクで話し始める。
「さて、お次は私とあずささんと千早から小鳥さんと社長にプレゼントがあります!」
「え?!」  
ここで伊織はしまった、という表情をする。
「伊織〜、アンタ私たちにプレゼント用意してくれたのは良かったけど、社長たちのこと忘れてたわね?」
「うぐぅ…」
「それ、キャラ違うわよ。
さて、それではまず小鳥さんへはこれです!」
「あら〜、かわいらしいカチューシャですね〜。これ、私がもらってもいいんですか〜?」
「ハイ、いつも私たちのために頑張ってくれているお礼ですから。」
「小鳥さん、いつも同じカチューシャされてるみたいでしたから。」
「うふふ、ありがとうございます!」
「ハイ、それからこれは社長へ!」
「むっ…、これは温泉のもと?」
「ハイ、それで疲れをいやしてください。」
「お体を大事になさってくださいね、社長さん。」
「いや〜、秋月君、如月君、三浦君、ありがとう!」  
高木が感動しているところへ、窓際にいた雪歩が事務所の外にトラックが停まったのに気づいた。
「あれ?社長、何かトラックが来たみたいですよ…?」
「おお、萩原君!そうか、ちょうどいいタイミングだったようだな。ヨウカ君、秋月君、音無君。」
「「「ハイ!」」」  
高木に呼ばれた3人は、そのまま事務所を出て外へと出て行った。
「何かあるんですか?」
「いや、何、すぐに分かるよ。」
「私に内緒で何か準備をしていたってわけ?」  
伊織が高木に何やら問いただそうとしているところで事務所の扉が開かれ、律子たちが大きな箱を数個ずつ抱えて戻ってきた。
「うわ→?!何それ、何それ?!」
「箱がいっぱいあるよ→?!」
「ふふ、これはね、私たちプロデューサー、小鳥さん、社長からあなた達へのクリスマスプレゼントよ。」  
ヨウカはそう言って、一人一人に大きな箱をそれぞれ配っていく。  
全員に配り終わったところで、一斉に箱のふたが開けられる。中から出てきたのは、
「うわ〜!これ、新しい衣装だっ!!」
「これ、サンタさんの衣装みたいですぅ〜!!」
「そう、“ホーリーナイトドレス”。これが私たちから君たちへのプレゼントだよ。」
「美希、これ早速来てみたいの!!」
「亜美も来てみた→→いっ!!」
「真美も真美も→→っ!!」
「ハイハイ、アンタ達、着替えるなら更衣室でね。」  
律子がそう言うと、皆は先を急ぐように更衣室へと向かった。
「社長、良かったですね、喜んでもらえて。」
「うむ、ANGELIC HIGHの陽子君には今度お礼をさせてもらわねばならないな。」
「あら、律子アナタは着替えないのかしら?」
「え、私?!」
「アナタの分もちゃんとあったハズよ、ほら。」  
そう言って律子にホーリーナイトドレスの入った箱を渡すヨウカ。その箱のあて名書きには“ヨウイチPより、秋月律子へ”と書かれていた。
「え、だって、私はもう…」
「ヨウイチにとっては、まだまだアナタはアイドルなのよ。ほら、着替えてらっしゃい!」
「…もう、プロデューサーってば…」  
律子は頬を染め、ドレスを胸に抱えて更衣室へと向かった。  
その後は、ホーリーナイトドレスを着たアイドルたちがクリスマスソングメドレーを行うなどしてパーティーは大いに盛り上がった。  
このパーティーの主賓である雪歩も笑ってはいたものの、やはり心から喜べない気持ちでいた。
(真ちゃんも一緒に皆と騒げたら良かったのにな…)  
雪歩は今は別の空の下にいる真を思って窓から空を見上げた。外は相変わらずのしとしと雨だった。


 
「プロデューサー、どうですか?」
「本当に着替えてきたのか……へ〜、似あってるじゃないか真!すごくかわいい。」
「へ…へへ〜、ありがとうございます、プロデューサー!」  
真はヨウイチから渡されたホーリーナイトドレスに着替えていた。これをもらった真は早速着てみたいと言って、ドレスを抱えてトイレに駆け込み、そのまま衣装に着替えてきたというわけだ。  
それからしばらく2人は豪華な食事と料理を楽しんだ。真は時折窓の外に見える駅をチラチラと見ていた。空から降る雪とライトアップされた駅がお互いに影響しあって幻想的な雰囲気をかもしだしていた。最初のうちは電車の出入りが多かった駅も、だんだん数が減ってきて、もうそろそろ終電になろうかという時間だった。
「あ、プロデューサー、明日も早いのでボクそろそろ…」  
真はそう言うと席を立ちあがった。
「……765プロへ帰るのかい?」  
ヨウイチはステーキを切りながらそう尋ねる。
「…え?!…ど、どうして…?」
「簡単なことだよ、ワトソン君。  
さっきから真はずっと駅と時計の方をチラチラと確認していたね?そして空から舞い降りる雪を眺めながら、どこか申し訳ない表情を浮かべていた。  
真、君は今から電車に乗って帰り、今日中、つまり雪歩の誕生日が終わる前に雪歩に出会って、その口で雪歩に伝えたいんだね?」
「……プレゼントだけは律子に頼んできましたけど、やっぱり言葉で気持ちを伝えるのってすごく大切なことだと思うんです。メールや電話でもおめでとうは言えるけど、なんて言うのかな、その…うまく言葉に表せないけど、温かさ、というか、そういうのが足りないと思うんです。
ボクたちは、歌を歌っていろんな人に思いを伝える仕事をしているからこそ、思うんです。本当に大事なことは、言葉にして、直接面と向かって相手に思いを伝えなくちゃいけない、って。」  
ヨウイチは切ったステーキを口に含み、咀嚼してから言葉を続ける。
「でも、今から終電に乗って戻っても今日中には帰れないぞ。それに、雪歩だってあまり遅いと眠っているかもしれないし。」
「確かにそうかもしれないけど、でも……」  
ヨウイチは最後のステーキの切れ端を口に含むと、イスの背もたれにかけてあったコートを羽織りながら立ち上がる。
「ホラ、行くぞ。」
「えっ、プロデューサー…?」
「真のお父さんよりは遅いかもしれないが、俺のドライブテクニックなら電車よりは早く走れるぜ?」
「プロデューサー……」
「真、何ボーっとしてんだ、行くぞ!雪歩が待ってるぞ。」
「ハイ、プロデューサー!!」  
会計を済ませたのち、ヨウイチは真を車に乗せ、雪の降る中を文字通り風を切りながら走っていくのだった。


 
パーティーが終わった765プロ。  
明かりの消えた会議室にはホーリーナイトドレスを着た雪歩だけが残っていた。  
相変わらず窓の外では雨がしとしとと降っていた。  
雪歩はなんとなく待っていた。根拠も何も無い、ただ奇跡を信じて。  
ろうそくを吹き消す前に願ったこと。
「真ちゃんとクリスマスを過ごせますように」  
雪歩は赤と白のストライプ模様のマフラーを手に持っていた。しかしこれは真からもらったマフラーではない。その証拠に、雪歩は首に手に持っているのと同じ模様のマフラーを巻いていたし、手に持っているマフラーには“M.K”のイニシャルが縫い付けてあった。  
これは、雪歩が真へのクリスマスプレゼントとして用意していた手編みのマフラーだった。偶然にも2人はお互いにお揃いのマフラーを編んでいたことになる。  
雪歩は常々真に感謝していた。こんな人見知りで臆病で何かあるとすぐ穴を掘る癖のある自分が、今こうしてアイドルとして活躍できているのは真のおかげなのだと。真がいなければ、とっくの昔に自分はアイドルを辞めていただろうと。  
雪歩は真がうらやましかった。ハッキリとものを言えて、いつも堂々としていて、自分に無いものを持った真に憧れていた。  
だから、雪歩は真に伝えたかった。普段は恥ずかしくて言えないことでも、聖なる日、特別な日でもあるクリスマスになら言えるのではないかと。
真に会って一言伝えたかった。
「真ちゃん、いつもいつも私を支えてくれて、ありがとう……!」
「それは、ボクのセリフだよ、雪歩……!」  
突然の言葉に、雪歩はハッと事務所の扉の方に視線を向ける。そこには、思いを伝えたかった相手、真が立っていた。
「……真、ちゃん……?」
「えっと、あと1分しか無いけど、雪歩、誕生日おめでとう。それが伝えたくて、帰ってきたんだ。」  
雪歩は思わず真に飛びついていた。
「ありがとう、真ちゃん…!」  
その時、どこかで鐘が鳴ったような気がした。時刻は零時。
12月25日、雪歩が願ったその日、雪歩の願いどおり2人は出会った。


 「全く、無茶するわね、アナタも…」  
765プロの駐車場に車を停めて、中でカーステレオを聞いていたヨウイチのもとに傘をさしたヨウカがやってきた。ヨウカに気づき、車から出てくるヨウイチ。
「ヨウカか、メリークリスマス。」
「メリークリスマス。」  
ヨウイチはヨウカの傘に入れてもらう。
「向こうじゃホワイトクリスマスだったのに、こっちじゃああいにくの雨、か。」
「ま、そんなものでしょ。それより、一体どんだけのスピード出してきたのよ?あんま無茶して事故って大切なアイドルに怪我でもさせたらどうするつもりだったの?」
「俺が一度でも車で事故ったことがあったか?」
「あれはまだ私たちが彩之宮プロにいた頃、私がまだデビューしたての新人アイドルだった頃に…」
「そんな昔のことは忘れたね。」
「去年、律子がボーカルマスターのオーディションを受けに行く時に…」
「あん時はマジで悪かったと思ってる…」
「全く……本当にそう思ってるのかしら?」  
そうして2人はしばらく無言で立っていた。
急に突風が吹き、それにつられるかのように、ヨウイチが空を見上げた時、
「……白…」
「…んなっ?!見たの?!見えたの?!」  
突然顔を真っ赤にしてスカートのすそを押さえるヨウカ。
「?何言ってるんだ?空だよ、空。」
「空?」
「雪が、降ってきたんだよ。」  
ヨウイチのセリフにヨウカが空を見上げると、先ほどまでの雨はいつの間にか雪に変わっていた。
「……神さまのBirthday、か…」
「神さまのバースディ?」  
ヨウイチのそのつぶやきに、傘を畳んでいたヨウカがオウム返しに尋ねる。
「今度の新曲のタイトルにどうかと思ってね。」  
そう言うとヨウイチは思いついた歌詞を口ずさむ。

もうすぐ待ち合わせの時間がやってくる  
水玉の空模様 白に変わるかな  
最高のシチュエーション作れるこんな景色に  
ラストシーン決めている あと必要なのはあなた
 
二人で祝おう 神さまのBirthday  
特別だよ誰だって主役になれるから  
耳をすまそう 聞こえるよring a bell  
いつもよりも少しだけフザけないでいてよね

「へ〜、いい歌詞じゃない。まさに今の真と雪歩にピッタリね。」  
そこでヨウカはすっとヨウイチの背後に回りこみ、
「ヨウイチ、ちょっと腕をあげなさい。」
「ん、こうか?」  
ヨウイチが腕をあげたところへ、上から何かをかぶせる。
「うわっ?!何する…ってこれ、セーターか?」  
ヨウカが着せたのは手編みのセーターだった。
「ま、クリスマスだしね。私からのプレゼントよ。」  
ヨウイチと視線を合わせずにつっけんどんに言い切るヨウカ。
「そっか、サンキュー、ヨウカ。」  
ヨウイチはセーターをしっかり着直すと、コートに手を突っ込み、中から小さなは箱を取り出した。
「ヨウカ。」
「何?」
ヨウイチの呼びかけにヨウカが降り向くと、ヨウイチはヨウカに背を向けたまま持っていた小箱をヨウカの方に放り投げた。
慌ててその小箱をキャッチするヨウカ。
「…これは?」
「大したもんじゃないけどな、俺からのクリスマスプレゼントだよ。」
ヨウカは中身を確認して頬を染める。
「……ヨウイチ」
「メリークリスマス」
ヨウイチは再びその言葉を口にする。
「メリークリスマス」
ヨウカもその言葉を再び口にするのだった。


 
「さっきの雪歩のセリフだけど…」
「え?」  
2人は席について雪歩の淹れたお茶を飲みながら、真は余ったクリスマスケーキと春香とやよいの作った雪歩の誕生日ケーキを食べていた。
「支えられているのは、ボクの方だよ。」
「真ちゃん…」
「ボクはずっと雪歩がうらやましかった。すごくかわいくて、おしとやかで、ボクの憧れていた女の子像、そのものが雪歩だった。だからボクはずっと雪歩みたいになりたくて、理想の女の子に近付きたくて、ずっと雪歩の後を追っていた。  
だから、雪歩がいてくれなかったら、今ボクはここにいなかったかもしれない。  
感謝するのはボクの方なんだ。ありがとう、雪歩。」
「そ、そんなこと無い!私だって真ちゃんがいなかったら、ここまでこれなかったと思う!真ちゃんみたいな心の強さに私は憧れて、真ちゃんみたいになりたくて、私は…」  
そこで真は人差し指を雪歩の口に押し付けて、雪歩のセリフを遮る。
「どうやら、ボクらは2人ともお互いに憧れて、お互いに後を追ってここまで走ってきたみたいだね。」
「ふふ、そうみたいだね。そっか、私たち、結局の所2人で支えあいながらここまで来たってことなんだね。」  
そこで2人は笑いあった。普段言えないお互いの思いを打ち明け、さらにお互いの関係が深まった瞬間だった。
「そう言えば雪歩、ボクの誕生日プレゼント、早速つけてくれてるんだね。」
「え、あ、うん。ありがとう、真ちゃん。これ、すごく温かいよ。  
そうだ、実は私からも真ちゃんにクリスマスプレゼントがあったんだよ。」  
そう言ってお揃いの手編みのマフラーを渡す雪歩。
「え、これ…?!」
「うん、私もびっくりしたんだけど、偶然同じ模様のマフラーをお互いに編んじゃってたみたいで…」  
真は雪歩からマフラーを受け取ると早速首に巻いてみた。  
お互いデザイン違いではあるがお揃いのホーリーナイトドレスに、お揃いの手編みのマフラー。
「雪歩、」
「真ちゃん、」
「「メリークリスマス」」  
またどこかで鐘の音が鳴り響いたような、そんな気がした。

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