〜春香・やよいの場合〜
雪歩の誕生日パーティーが決まった日の翌日の日曜日、春香とやよいはヨウイチのもと新曲の歌詞レッスンを行っていた。歌詞レッスンはあずさも一緒に行っていて、時にあずさが2人のお手本となることもあった。
午前のレッスンが終わり、休憩時間の時に2人は雪歩へのプレゼントのこととプレゼント交換用のプレゼントをどうするかで相談していた。
「雪歩さんは何をもらえば喜んでくれますかね〜…?」
「ん〜、雪歩はお茶が趣味みたいだけど、私はお茶のことなんてさっぱりだしね〜。」
「それにヨウカさんへのプレゼントも考えなきゃだし…
あ〜、それに弟たちにもプレゼントを……
うっう〜…今月はお小遣いがピンチです〜……」
やよいの家は貧乏なので、やよいの稼ぎのほとんどは生活維持費に回っている。だから、彼女のお小遣いは一般の女子中学生と同じくらいか、下手をするとそれより少なかったりする。
「ふむ…、あ!それならいい考えがあるよ!!」
春香は何かを思いつき、やよいに耳打ちをする。
「ああ!それはいい考えですね!!確かにそれだとお金はあまりかからないかもです!
あ、でも、材料が…」
「それなら心配ないよ!私の家にたくさんあるから、問題ないよ」
春香はVサインをしてウインクしてみせる。
ちょうどその時、休憩室に千早からボイスレッスンを受けていた伊織が入ってきた。
「あら、春香にやよいじゃない。アンタたちも休憩?」
「あ、伊織!ちょうど良かった。あのさ、雪歩の誕生日パーティーのプレゼントのことなんだけど…」
そこで春香は伊織の耳もとで先ほどやよいに提案したことを話す。
「どうかな?」
「ん〜、一応こっちでもクリスマス用とは別に用意しようと思ってたからね。春香たちが用意するってんなら、それでいいわよ?」
「決まりだね!やよい、とびっきりのものを作って雪歩を驚かせちゃお!」
「ハイ、頑張りましょう!春香さん!!」
「それから、ヨウカさんへのプレゼントに関しても、千早ちゃんに私の考えをメールで伝えておくね。」
そう言うと春香は千早にメールを打ち始めた。しばらくしてメールが返ってくる。その返事は“それはいい考えかもしれないわね。私は賛成よ。”というものだった。
「うっう〜!ヨウカさんへのクリスマスプレゼントもこれでバッチリですね!」
「うん、やよい!3人で頑張っていいものを作ろう!」
2人は右手をあげて“ハイ、タッチ”をする。
〜真・雪歩・伊織の場合〜
日曜日の早朝、真と雪歩と伊織は765プロへと向かうためバスに乗っていた。伊織は一時期家の車で送り迎えをしてもらっていたことがあるのだが、高級車での送り迎えというのはあまりにも目立ってしまうため、売れ始めてからは公共の交通機関を利用するようにしている。
「ねえ、雪歩。誕生日プレゼントには何が欲しい?」
真が右隣に座る雪歩に尋ねる。
「え、ん〜……真ちゃんがくれるものなら私なんでもいいよ。」
「ん〜、なんでもいいか…本当に欲しいものはないの?」
「ちょっと真、本人に聞いたってしょうがないでしょ。こういうのはサプライズが大事なんだから、くれるもの分かってる状況じゃあ喜びも半減するでしょう?」
真の左隣に座る伊織が口をはさむ。
「そ、そんなことはないと思うよ、伊織ちゃん。好きな人からもらったものなら、それがどんなものであれやっぱり嬉しいと思う。」
「ふ〜ん、そうだよね。何にしようかな〜…」
「…真、雪歩の趣味が“お茶”だからってその辺のスーパーでお茶っ葉を買ってプレゼント、だなんてやめてよ?」
「ギクッ!い…伊織、なんでボクの考えてることが…?!」
「簡単なことよ、ワトソン君…ってプロデューサーの口癖がうつっちゃったわ。」
ヨウイチは推理小説マニアで、ことシャーロック・ホームズに関してはうるさい。間違って彼の前でミステリという単語を出してしまったら2時間は付き合わされる羽目になる(律子談)ので、彼の前でミステリの話題は厳禁とされている。
「つまり、過去の真の行いを考えればすぐに分かるってことよ。
私の誕生日にはウサギのぬいぐるみ、あずさの誕生日には犬のぬいぐるみ、律子の誕生日には資格取得という律子の趣味から簿記帳、という風にその人の好きなものをチョイスしているわね。また、美希の誕生日にはおにぎり、双子の誕生日の時なんてあの子らの趣味がモノマネだからって対して似てもいないモノマネまで披露しちゃうし。まあ、声優の平田宏美さんのマネだけはそっくりだったけど。
だから、雪歩の趣味=お茶だから、お茶っ葉を買うんじゃないかと推理したまでよ。」
「う…、全く反論できない…」
「美希の時のおにぎりは、まあ本人が単純だから喜んでたけど、その辺のスーパーで安売りしてるようなお茶っ葉を誕生日プレゼントにするなんて失礼よ?雪歩のお茶って趣味はもっと高尚なものなんだから。」
「ハイ、ごもっともで…」
ションボリとうなだれる真。
「あ、で、でも一般的なお店で売っているお茶も入れ方次第ではすごくおいしくなるんだよ?だから、別にそういうものでも私はもらえると嬉しいかな。
大事なのは、ものじゃなくてその人の心だと思うから。」
落ち込む真をフォローする雪歩。
「ま、安売りのお茶っ葉に心がこもっているかどうかは怪しいもんだけどね。」
伊織はそこで真の耳許に口をよせ、雪歩に聞こえない声でささやく。
「特に真、アンタは雪歩のパートナーなんだから、しっかりと考えてプレゼントは選びなさいよ?」
「…ん、そうだね。分かったよ、ありがとう伊織。」
バスが目的のバス停に到着し、3人はそこで会話を一旦打ち切り、バスを降りて765プロへと向かう道を歩いて行くのだった。
〜律子・あずさ・千早の場合〜
「ハイ、今日の午前中のレッスンはここまで。真、雪歩、伊織、あとは各自しっかりと声の出し方を復習しておいてね。」
「ありがとう、千早!」
「声の出し方が分かった気がします。」
「さすが千早ね、律子より教え方うまいんじゃないの?」
その日の午前、伊織・真・雪歩は千早のもとボイスレッスンを行っていた。今日は本来であれば律子が教えることになっていたのだが、律子に急用ができてしまったため、急きょ午前中フリーだった千早が彼女らのボイスレッスンを担当することになったのだった。
「悪かったわね、千早より教え方悪くって。」
「えええええっ、律子?!アンタ、急用ができて事務所にいないんじゃなかったの?!」
と、レッスン場にその当の律子がやってきたので驚く伊織。
「もちろん用事で午前中は空けてたわよ。その用事が終わったから、こうして帰ってきたのよ。
まあレッスンはいい感じで出来たみたいね。千早もお疲れ様。束の間のオフだったのに、悪かったわね。」
「いえ、そんなことはないです。何より他人に教えることで、自分のまだまだ未熟な部分がハッキリと分かりますので、すごく有意義な時間でしたよ。」
「そう、それなら良かった。
さて、真、雪歩、伊織、アンタたちは午後からは仕事よ!ANGELIC HIGHプロダクションの新人アイドル、浅倉美咲ちゃんと綾小路沙也香ちゃんと佐伯加奈ちゃんの3人とクガTVのトーク番組の収録があるから、それまで休憩!午後2時には事務室に集合ってことでいいわね?」
「「ハイ!!」」
「綾小路沙也香ですって?!あの綾小路財閥のお嬢様じゃない!」
「あら、伊織は彼女のこと知ってるの?」
「パパの仕事の関係で何度か会ったことがあるわ。…私、あの子なんとなく苦手なのよ…」
「ふ〜ん、私には2人とも同じような性格してると思うんだけど。同族嫌悪ってやつかしら?」
その会話はそこで打ち切りとなり、3人はレッスン場を出て行った。あとに残ったのは律子と千早のみ。
「さて、千早。千早は午後からはレッスンだけだったわよね?」
「ええ、ヨウカさんからダンスレッスンを受けることになってますが。」
「だったら、この休憩時間でちょっと外に出ない?あずささんも誘ってあるんだけど、雪歩のバースディプレゼントの下見でもしようかと思って。」
「私は別にかまいませんよ。」
そこへ、歌詞レッスンを終えたあずさがやってきた。
「あら、律子さん早かったんですね〜。」
「あ、あずささん。ええ、大した用事では無かったので。」
あずさと律子が話しているところへ、千早の携帯電話にメールが届いた。差出人は“天海春香”となっていた。千早はメールの内容を確認し、律子に見られないように返信して携帯電話をしまった。
「さて、それではあずささんも揃ったところで行きますか。」
「ハイ、雪歩ちゃんへの誕生日プレゼントとプロデューサーさんへのクリスマスプレゼント選びですね。」
「え、プロデューサーへの?あずささんもですか?」
「ええ、実は伊…」
…織ちゃんの案でプロデューサーさんたちへクリスマスプレゼントをサプライズで贈ろうって話になってまして、と言いかけるあずさの元へと千早は急いで駆け寄り、慌ててあずさの口を押さえ小声で耳打ちする。
「ちょっと、あずささん!律子にそのことをばらしてどうするんですか!!律子だってプロデューサーなんですよ?!」
「あらあら、うっかりしてましたわ〜。」
「うっかりじゃないですよ〜〜!!」
そこで千早は律子の方へと笑顔を向け、
「そうですね〜、私もお世話になっているヨウカさんへ何かプレゼントを贈ろうかしら〜…」
とかなりな棒読み口調で言う。
「千早、アンタ顔が青いわよ?青いのは鳥だけにしときなさい。
…なるほどね、まあプロデューサーたちには黙っておくわよ。さしずめ、皆から私達プロデューサーへサプライズを準備しているってところでしょう?」
あっさりと看破する律子。
「あらあら千早ちゃん、ばれちゃいましたわね〜。」
「半分以上はあずささんのせいですよ?」
「あははは、まああずささんに隠し事なんて無理ってものでしょう。まあ、当日は私は知らないフリをしておくから、気にしないで。」
「ところで、律子さんもプロデューサーさんへのプレゼントを考えていたんですか?」
と、あずさが律子へ尋ねる。
「え…、ああ、うん。まあ、長い付き合いだし、なんだかんだでけっこうお世話になっちゃってるし、そのお礼もかねて、ね。」
「そう言えば、律子さんってプロデューサーさんのこと…」
「ちょ、そんなんじゃないですよ!!そういうあずささんだって、プロデューサーが運命の人かもしれない、って言ってたじゃないですか!!」
「あらあら、うふふ。」
「あれ〜、ここにもいないね〜…」
「ん〜、どこに行ったのかな〜?」
そこへ、美希と亜美・真美の3人がレッスン場へと入ってきた。
「あら、美希たちじゃない?どうしたの?」
「アンタたちは午後からヨウカさんのもとでダンスレッスンのハズでしょ?」
入ってきたばかりの3人は千早と律子の2人から質問をされて、それらの質問に美希が答えた。
「えっと、私たちプロデューサーを探してるんだけど…」
「プロデューサーさんなら、私達への歌詞レッスンを終えたあと小鳥さんやヨウカさんと一緒に食事に出かけたみたいですよ?」
「ええええええ→っ!」
「それじゃあ兄→ちゃんいないの→→?!」
「う〜、残念なの〜。」
「何、プロデューサーに何か用事でもあったの?」
「ううん、別に大したことじゃないの!」
「うんうん、そうそう!」
「それじゃあ、ばっはは→い!」
そう言うと3人はレッスン場を去って行った。
「何だったのかしら〜?」
「…まあ、大体予想はつくけどね…」
「あの子たちってば、大胆と言うか何も考えていないというか…」
千早と律子は頭を押さえて2人そろってため息をつく。
3人は一旦事務室へと顔を出し、律子はホワイトボードを見てヨウイチとヨウカ、小鳥が昼食のため外出しているということを確認すると、そこへ自分たちもこれから外出する旨を書き込んでいるところへ、事務室の電話が鳴り響いた。
「律子さん、お電話みたいですよ?」
「ああ、ハイ!今出ます。」
律子は急いで手近にあった受話器を取り、電話に出る。
「ハイもしもし、こちら765プロダクション、秋月律子ですが………ハイ、ああカグラTVの天王寺さん!……ハイ、ハイ……それでは例のドラマ撮影のスケジュールが決まったんですね……、ハイ…12月の……、えっ……」
そこで律子は驚きの表情を見せた。
「どうしたんでしょう…?」
「分かりません…でもカグラTVでドラマ撮影って言えば、確か真の…」
「……ハイ、分かりました。この件の担当はヨウイチプロデューサーが請け負っていますので、こちらからそのように伝えておきます。……ハイ、わざわざありがとうございました。……イエ、それではお疲れ様です。」
律子は電話をおいた。その顔から律子が相当のショックを受けていることが分かる。
「どうしたんですか、律子さん?」
「何か、あったんですか…?」
「…うん、それが……」
律子の口から語られた事実に、あずさも千早もショックを受けるので会った…
〜美希・亜美・真美の場合〜
日曜日の朝、珍しく早起きした美希はこれまた珍しく朝ご飯を食べて、手早く着替えをすまし、家を朝9時半に出た。
家を出て向かったのは都市の中心部。今日の午前中はレッスンも仕事も入っていなかったので、同じくオフである亜美・真美と待ち合わせをしていた。目的は、雪歩への誕生日プレゼントと彼女らのプロデューサーであるヨウイチへのクリスマスプレゼントを選ぶということ。
待ち合わせ場所にはすでに亜美・真美の姿があって、美希は2人に話しかける。
「おっはよ〜!2人とも早いね〜!」
「おっはろ→ん、みきみき!」
「おお、遅刻しないみきみきなんて珍しいねぇ!w」
「美希だってたまには早起きくらいするの!…でもやっぱり眠いの〜、あふぅ」
そう言ってあくびをする美希。
それから3人はプレゼントを買うために、某大手デパートの中へと入って行った。
「ゆきぴょんにあげるプレゼント何がいいかな〜?」
「おにぎりとかは?」
「却下。」
「え〜、なんでなの〜?!」
「みきみき毎回そればっかじゃん!」
「そうだよ!いおりんの時のウサギさんおにぎりとかはまだ良かったけど、真美たちの時のメール(手紙)入りおにぎりは酷かったよ→!」
「でも、おにぎりはおいしいんだよ?」
「ゆきぴょんはお茶が好きだから、お茶っ葉とかあげるといいんじゃないかな?」
「ん〜、でもそれだと単純すぎないかな〜?」
亜美・真美は美希の言うことはスルーして話を進める。
「お茶…そうだ!お茶っ葉おにぎりなんてどうかな?!」
「みきみき、それもらって嬉しいと思う?」
「……おにぎりならなんでも嬉しいの!!」
「「はぁ〜…」」
双子は雪歩に同情の念を抱くのだった。
3人はそれぞれ雪歩へのプレゼントを選び終え、次にヨウイチへのプレゼントをどうするかという話にうつった。
「兄→ちゃんには何をあげたらいいかな〜?」
「あずさお姉ちゃんにはさっきメールで聞いてみたんだけど、もう決めてるみたいだったよ」
「美希ももう決めてあるんだ!」
「……どうせおにぎりとか言うんでしょ→?」
「違うの!プロデューサーへのプレゼントは〜……」
「プレゼントは〜?」
そこで美希は一息ついて、頬を染めながら答える。
「「「美希自身をプレゼントなの!」」」
見事に美希の声が三重で聞こえた。いや、正確には双子が得意のモノマネで美希の声を真似ただけなのだが。
「ちょっと、なんで一緒に言うの?!っていうか、どうして美希の考えてることが分かったの?!」
「みきみき、まこちんの誕生日の時も同じことやってたじゃん?」
「みきみき〜、まこちんと二股はいけませんぜ〜?」
「プ…プロデューサーが本命なの!真クンは、美希の王子様なの!」
「でも、プロデューサーの周りにはあずさお姉ちゃんとかリッチャンとかヨウカ姉→ちゃんとかライバルは多いよ〜?」
「でも美希だって負けないの!」
そんな話題ですっかり盛り上がる3人。そうこうしてる内に時は過ぎ、3人が事務所へと戻る時間がやってきてしまった。
「……結局、プロデューサーへのプレゼント決まらなかったね…」
「ん〜…、兄→ちゃんに何あげたら喜ぶかな〜…」
「こうなったら直接兄→ちゃんに聞いてみようか?」
「それが一番かも!やっぱりプロデューサーが一番欲しいものをプレゼントするのが一番いいと思うの!」
「ん〜、でもいおりんにはばれないようにって言われてるよ〜?」
「ばれないようにすればいいんだって、真美〜!」
「そっか、そうだよね!」
「よ〜し、それなら急いで帰ってレッスン前にプロデューサーに突撃インタビューなの!」
「「お→→→っ!!」」
そうして3人はちょうどやってきた事務所へと向かうバスに飛び乗るのだった。
ちなみに、結局ヨウイチに欲しいものを聞くと言う手段はその後律子と千早によって止められることになる。
〜ヨウイチ・ヨウカ・小鳥の場合〜
あずさ、春香、やよいへの歌詞レッスンを終えたヨウイチは事務室へと戻ってきた。
「お疲れ様、春香とやよいはどうだった?」
事務室に残ってスケジュール調整を行っていたヨウカがヨウイチに尋ねる。
「ああ、あの2人の調子は順調だよ。これからどんどん伸びていくだろうな。」
「ふふふ、それは楽しみですね。」
そこへ、ヨウイチのためにコーヒーを淹れて運んできた小鳥が会話へ加わる。
「あ、小鳥さんどうもです。」
「いえいえ、それよりも春香ちゃんたちも有名になれば765プロは大忙しになりますね。」
「そうね〜。まあ大変な分、嬉しさも倍なわけだけど。」
「春香とやよいにくわえて美希もこれから売り出していく予定だからな、彼女らの活躍次第では、今後の765プロの活動方針も変わってくるだろうな。」
そこでヨウイチは小鳥の淹れてくれたコーヒーを口に運ぶ。ヨウイチは仕事が一段落した後で飲む小鳥のコーヒーが好きだった。
「そうだ、2人ともこれから暇ですか?」
小鳥のコーヒーを飲み干すと、ヨウイチは今事務所にいるヨウカと小鳥に尋ねる。
「えっと、私は今日の午後は予定が入っていませんけど?」
「午後2時からは千早と美希、亜美ちゃん真美ちゃんのダンスレッスンを見る予定だけど、それまでは暇よ?
あら、何?私たち2人を誘ってダブルデートとでも洒落込むつもり?」
「そんな、ヨウイチプロデューサー!二股なんていけませんわ!!」
「べ、別にそんなつもりはないですよ!ただ昼食でも一緒に行きませんかって誘おうと思っただけです!もちろんおごりますよ?」
「あら、残念。」
「そうですね〜、私も今日は外で食べようと思ってましたからいいですよ。」
「決まりですね、最近おいしいところが近くにできたんですよ。うどん屋なんですけどね。」
「女性2人を誘っておいてうどん屋ね〜…」
「いや、そう言うがなヨウカ、そこの店けっこう女性にも評判がいいんだぞ。今流行りの低カロリーうどんとかあってだな〜…」
と、そこへ事務所の扉が開いてあずさが入ってきた。
「あ、プロデューサーさんたちお話し中でしたか?」
「ああ、あずささん。いえ、大丈夫ですよ?どうしたんです?」
「えっと、午後からの私の予定なんですけど〜、ちょっとど忘れしてしまって…」
「あはは、えっと、あずささんは午後からはTVの収録ですよ。ANGEL HIGHプロダクションの新人アイドル・桜井桃花ちゃんと共演する予定になってます。俺と一緒にクガTVに行きます。収録が3時からなので2時までに事務所にいてくれればいいですよ。」
「分かりました。わざわざすいません〜。」
そう言って手を前で組んでお辞儀をするあずさ。そうするとあずさの豊満な胸が余計に強調されてしまうため、ヨウイチは思わず目を逸らす。
「やはりいつ見ても殺人兵器ですね…」
「?何か言いましたか、プロデューサーさん?」
「い…いや、なんでもないですよ!!!
あ、そうだ。それから俺とヨウカと小鳥さんはこれから食事で事務所を開けますので、皆に会ったらそのことを伝えておいてもらえますか?」
「ハイ、分かりました。行ってらっしゃ〜い、うふふ」
あずさが事務所を出てしばらくしてからヨウカは
「…私もけっこう自信はあるんだけど、あずささんのあれは反則よね…」
「ん、何か言ったかヨウカ?」
「なんでもないわ。」
「さて、それでは行きましょうか。ヨウイチプロデューサーお勧めのうどん屋さんとやらへ。」
「そうですね、行きましょう。」
3人はそれぞれコートを羽織って事務所を出る。その際に、事務所のホワイトボードのヨウイチ・ヨウカ・小鳥の欄に“昼食のため外出”と小鳥が書き込んだ。ちなみに、社長の欄には“ANGELIC HIGHプロ・陽子社長と会合”と書かれて一日中外出の予定となっていた。
うどん屋でメニューを注文し、待っている間に3人は誰からともなく例のパーティーの話題をし始めた。
「なんとか24日の日は皆オフがとれそうね。」
「そうですね〜。」
「あと心配なのは真の出演しているドラマ撮影の日程だけだな。何しろ、撮影スケジュールが共演者の彩之宮プロのお嬢様・彩之宮美夏(みなつ)のスケジュール次第ってんだからな…」
「ああ、そう言えばその件が残ってたわね。まだ先方から連絡はないの?」
ヨウイチはヨウカの質問に対して無言で首を振る。
ヨウイチとヨウカはため息をつく。彼らが彩之宮プロを辞めなければならなかった原因の一つが彼女との内部抗争にあったのだが、その話はここでは割愛する。
「何しろ、各方面から引っ張りだこだからな、彼女。いや、正確には彼女を使うよう各方面に圧力がかかっている、という言い方のが正しいか。」
「何しろ、あそこはかなりの力を持っていますからね…」
「逆らえばどうなるか分かったもんじゃない…だから、従わざるを得ない。」
「……スケジュールが被らなければいいんですけど…」
「そうですね…」
そこで3人の前に注文したメニューが運ばれてきて、3人は一旦会話をやめる。ヨウイチが頼んだのはかつ丼+ミニうどんセット、ヨウカと小鳥はヘルシーうどん(カロリーが普通のうどんの半分なのだそうだが…)。
「…しかし、社長のアイドル達へのプレゼントってのには驚いたな。」
「本当に、どっからそれだけの資金を調達してくるつもりやら…」
「その件に関してなんですけど、どうやらANGELIC HIGHプロの陽子社長がバックアップしてくれるみたいですよ?今日の会合はどうやらその辺のことも関係しているらしくて」
「あの敏腕社長が?!なんでまた…」
「どうやら、私たちがあちらの企画“アイドルレボリューション”の後押しをする代わり、ということらしいです。」
「ええ、マジですか…」
ヨウイチはちょっと焦った表情になる。
「ああ、今日の午後から入っているあれね?そういえば、ヨウイチは積極的にこの企画に賛同してたわね。どうして?」
「ああ…いや、“アイドルレボリューション”の新人5人にはかなりの素質があると思ったんだ。ただ、新人ゆえにまだまだ知名度が低い。だから、765プロと共演と言う形で彼女らを売り出す手助けをしたいと思ってね。あれだけの逸材が眠ったままというのは惜しいと思ったんだ。」
「……本音は?」
ヨウカは鋭い眼でヨウイチの目を射抜く。
「アナタがただ彼女らを売るだけで765プロの面々を招集したりなんかしないわよね?何かそこに企みがあるんじゃないの?」
「……ANGELIC HIGHはかなり大きなプロダクションだからな。そこの社長が社運をかけて立ち上げた企画“アイドルレボリューション”の成功に少しでも765プロが役立ったなら…」
「ヨウイチプロデューサー、したたかですね。」
「計算高いと言ってください。アイドルたちが売れているとはいえ、まだまだ我々は弱小プロダクションなんですから。」
「それだけでは無いわね?」
「ああ、彼女らと共演させることで、765プロの皆の刺激になればとも思ってね。大きな後ろ盾プラスアイドル達のモチベ向上のいい機会だと思ってね。」
「全く、他社の企画を利用するなんて、酷い男(ヒト)」
「ま〜これも全て、我らが愛しの娘(アイドル)たちのためさ。」
その時、ヨウイチの携帯電話に着信があった。どうやらメールのようで、差出人は“秋月律子”となっていた。メールのタイトルには“例の撮影の件で”となっていた。
「どうかしたんですか、ヨウイチプロデューサー?」
「……どうやら、あのお嬢様のスケジュールが決まったようですよ…」
ヨウイチはやりきれないという表情で携帯電話のディスプレイをにらんでいた…