クリスマスの歌―神さまのBirthday―

第二章

その日の夜、765プロの忙しい1日が終わり、皆が事務所にそろって一息をついていた。
「は〜、律子さんのレッスン今日もきつかった〜…」
「でも、新曲の声の出し方が分かった気がします!」
「あれくらいでバテテもらっちゃあ困るわよ?アンタたちにはもっと上を目指してもらうんだからね?」
「雪歩、ボクもお茶もらってもいいかな?」
「ハイ、真ちゃん。」
「結局雪積もらなかったね、亜美〜…」
「残念だったね、真美〜…」
「伊織、インタビューはどうだった?」
「バッチリよ、プロデューサー!私の魅力を存分に語ってきてやったわ!」
「デコちゃんの素が出なくて何よりなの。」
「千早ちゃん、TV出演の方はどうでした?」
「あのハルカって方は一体何なんですか?!語彙力も無ければ、あの底抜けな…」
「ハイハイ、千早落ち着いて?あずささんは結局大丈夫だったんですか?」
「ええ、あの後は律子さんが私のことを探し出してくれて…」  
皆それぞれに今日一日あったことを報告しあって、会話を花咲かせている。と、そこへ事務所の扉を開けて一人の初老の男性が入ってきた。
「やあやあ諸君、今日もお疲れ様!」  
高木順一朗、彼がこの765プロの社長である。彼の容姿は(禁則事項)
「あ、社長。お疲れ様です!」
「ああ、そのままでけっこうだよ。お、千早君!TV出演お疲れ様。オンエアーが楽しみだよ。」
「いえ、本音を言うならあまり見て欲しくは…」
「ふむ、今全員そろっているようだね。」  
高木は事務所を見回し、765プロに所属している全員が今この場にいることを確認すると、改めて咳払いをし、本題に入った。
「さて、皆も承知のとおり、今月24日はクリスマスイブ、そして萩原雪歩君の誕生日だ。  
そこで、我が765プロではささやかながら萩原君の誕生日パーティー及びクリスマス前夜祭を行いたいと思うのだが、どうだろうか?」
「お→→ゆきぴょんの誕生日パーティー!!」
「真美たちは大歓迎だよ→→!!」
「うっうー!それはいい考えですねー!」
「そ…そんな私なんかのために…」
「いいじゃないか雪歩!盛大に楽しもうよ!!」
「ちょっと、社長!それは確かにいい考えですけど、スケジュールの方は…」
「ん、まあただでさえ年末年始でスケジュール調整は大変だろうが、君たちの腕に期待しておるよ。」
「全く、簡単に言ってくれちゃいますね、社長は…」
「まあまあ律子さんも固いこと言わないで。せっかくのクリスマスイブで雪歩の誕生日なんですから!」
「ニヒヒ、社長もたまには言いこというじゃない?ただし、ささやか…ってのがちょっと気に入らないわね。」
「おい、伊織それはどういう意味だ…?」  
そこで伊織がわが意を得たりとばかりに、手近にあったデスクに登って演説よろしく大げさな身振り手振りで話し始めた。
「年に一度のクリスマスイブ!そして雪歩の生誕祭!この日は普通の誕生日とはわけが違うのよ!ダブルでおめでたなのよ!!それをささやかに祝おうだなんて、神様の罰があたるわ!」
「水瀬さん、言っていることの意味が分からないんだけど…?」
「社長、そのパーティーの企画、私がたてちゃってもいいかしら?」  
千早の言は無視して伊織は高木にウィンクをしてみせる。
「ん…、あ、ああ。元々私は誰かにパーティーの企画の詳細は任せようと思っていたから、その役割を水瀬君が請け負ってくれるのならば別に反対はせんよ。」
「ニヒヒ、決まりね!12月24日、雪歩のバースディパーティー&クリスマスイブパーティーの開催を宣言するわ!!ささやかなんてもんじゃない、ギネス級の豪華なパーティーにしてみせるんだから!」
「おー!美希もなんだかワクワクしてきたのー!」
「おいおい、水瀬君!そんなことを言っても予算がね…」
「そんなもの、私のポケットマネーから出してあげてもいいわ。」
「うふふ、伊織ちゃん張り切ってるわね〜。」
「伊織のやつ、何か企んでいるんじゃなかろうな…?」  
ヨウイチが突然主導権を握った伊織に疑惑の目を向ける。  
伊織はようやくデスクから降りると、今度はパーティーをどうするかで悩み始めた。
「パーティーに必要な道具なんかは私が全部用意するとして、まず皆は雪歩の誕生日プレゼントを1人1つ用意してくること。それと、クリスマスなんだから全員でプレゼント交換もやりたいわね。」
「ってことは、ボクらは雪歩へのプレゼントとは別にもう1つプレゼント交換用のプレゼントを1つ、計2つのプレゼントを準備すればいいんだね?」
「な、なんだか皆に負担かけちゃうみたいで申し訳ないです…」
「ゆきぴょんは気にしなくていいよ→!なんたって、え〜っと…、そうだ!“しゅひん”なんだから!」
「社長やプロデューサー、小鳥さんももちろん参加するのよね?」
「私も参加していいのであれば、喜んで!」
「私も予定がなければ。」
「俺はいいよ。女の子同士で楽しむといい。」
「何言ってるんですか、プロデューサー!プロデューサーもぜひ参加してもらいますからね!」
「もちろん、私は参加させてもらうよ。」  
全員の参加が決定したところで、今日はもう遅いからという理由でひとまず解散となった。  
アイドル達は各々の実家へ、プロデューサーらは24日のためのスケジュール調整のためもうしばらく残って打ち合わせの作業をすることになった。

 解散後、事務所を出たアイドルたちはそのまま最寄りの駅ないしバス停に向かわずに、近所の公園に集まっていた。  
ジャングルジムに上って、他のアイドル達を見下ろす形で仁王立ちしているのは、パーティーの企画者に名乗りを上げた伊織だ。  
伊織を見上げながら、真が皆を代表する形で皆が抱いているであろう疑問を真っ先にぶつけた。
「で、こんな所に集めた理由は何なのさ伊織?」
「話なら事務所内でも良かったんじゃないの?」
「プロデューサーらには聞かれたくない話だからここに集まってもらったのよ。」
「プロデューサー達に聞かれたくない話…?」
「そう。」  
そこで伊織は一旦間をおき、くるっと体を反転させると、皆に背を向ける形で再び話始めた。
「私たち、日頃からプロデューサー達にはお世話になってるわよね?」
「まあ、それはそうよね。」
「そこでよ、私たちのそれぞれの担当プロデューサー達に感謝の気持ちを込めて、クリスマスプレゼントを贈る、ってのはどうかしら?」  
ここで伊織は再び皆の方へと向き直り、右手の人差し指を立ててポーズを決める。
「プロデューサー達へのプレゼント…!」
「そう、私と真と雪歩の3人から律子へ、春香とやよいと千早の3人からヨウカプロデューサーへ、あずさと美希と双子の3人からプロデューサーへ、って感じで!」
「なるほど、それはいい考えね。」
「きっとプロデューサーさんたちビックリしちゃうでしょうね!!」
「なんだか今日の伊織ちゃん、すごくいいことばっかり言ってるよね。」
「いおりん、何か悪いものでも食べたの→??」
「何にも変なものは食べてないわよ!ただ、普段プロデューサーらが私たちのために一生懸命になってくれているのを見て、ちょっとお返しがしたいなと思っただけよ。  
もちろん、雪歩の誕生日パーティーだってぬかりなく盛り上げちゃうんだからね!」
「なんだか今年のクリスマスはいろいろと面白くなりそうだね!」
「うっう〜!今から待ち遠しいです〜〜!!」  
アイドル達の笑い声が冬の夜空に響き渡る。

 
一方、765プロの事務所ではヨウイチ、ヨウカ、律子、小鳥、高木の5人が残って24日のパーティーへ向けてのスケジュール調整を行っているところだった。  
小鳥がコーヒーを入れてきて配っている際に、ヨウカがふと自身の抱いていた疑問を口にする。
「にしても、なんだか今日の伊織はやけに意見を言ってたわね。」  
その質問に対し、コーヒーを配り終えて自らの席に着いた小鳥が答える。
「ひょっとしたら、“My姫ーズ”のインタビューで『クリスマスはどのようにして過ごす予定ですか?』って聞かれたことが影響したのかもしれませんね。」
「小鳥さん、その質問に伊織はなんて答えたんです?」  
ヨウイチが興味津々といった様子で身を乗り出す。
「ええっと、確か…『ノーコメントで♡』って。ただその時の表情なんですけど、今思えば何かを思いついたというような表情だったように思いますね。」
「真の誕生日の時みたいに超特大ケーキをまた持ってくるんじゃないでしょうね…?」  
律子がその時のことを思い出して溜息をつく。真の誕生日、8月29日のあの日、伊織は誕生日ケーキと称して結婚披露宴でケーキ入刀時に使われるような巨大なケーキを準備していて、765プロの面々を驚かせたのだった。
「いや、あの程度ならまだかわいいものだろ…何せ今回は『ギネス級の』なんて言ってるんだからな。何をしでかすやら…」  
と言いつつも半ば楽しそうな表情を浮かべているヨウイチ。ヨウイチはこういう派手なことが好きなのだ。
「私は何か間違ったことを言ってしまったかね…?」  
真の誕生日の時に巨大なケーキのセッティングを手伝わされ、挙句に余ったケーキの処分までさせられた高木は、今度は何をやらされるやらと頭を抱えている。
「まあ、小鳥さんの話を聞く限りじゃあ社長が企画案を出さなくとも、伊織の方から言い出していた可能性は高いでしょうね。全く、今度は何をやらかしてくれるのかしらね?」  
そう言ってため息をつくヨウカだが、彼女も内心で楽しみにしているのが分かる表情を浮かべている。
「そうだ、プロデューサー!伊織が私たちを驚かせてくれるのなら、私たちも伊織たちを驚かせてあげませんか?!」
「ん、どういう意味だ律子?」
「プレゼント交換とは別に、私たちプロデューサー側からあの子らにプレゼントを贈るんですよ!」
「へ〜、いいんじゃない、それ!」
「律子さん、いい考えですね!!」
「なるほど、そいつはいいな。」
「秋月君、実は私もそのことは考えていたんだよ。」
「え、社長もですか?」
「ああ、例えばなんだが……」
 765プロの事務所の明かりは、その夜は消えることが無かった。

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