「祐一君、遅いよっ!!」
その少女はミニスカートにノースリーブのシャツ、肩から天使の人形のキーホルダーをつけたたい焼き型のバッグをかけていて、背中には羽つきのリュックをかるっていた。髪は少し茶色がかった肩までのショートカット、左側に小さなリボンを結んでいる。
「遅いよ、って今やっと10時になったところだぜ?待ち合わせは10時だろ!?」
少女の名は月宮あゆ。そして、彼女に呼ばれた少年、半袖シャツにジーパンを穿き、どことなくやる気のなさそうな顔をした彼の名は相沢祐一。
二人は恋人同士で、今日、午前10時に二人の思い出の場所、二人だけの秘密の「学校」、山の中の大きな切り株のある広場、ここで待ち合わせていたのだが・・・。
「でも、ボクは2時間も待ってたんだもん!!」
「なんだ、2時間なんて俺だって名雪に待たされたことあったぞ、それも雪の降る中を!
って、第一勝手に待ってたのはお前だろ?!それは俺のせいじゃあない。」
「うっ・・・、それは、そうだけど・・・。でも祐一君が悪い!!」
「なんじゃそりゃ・・・。」
「ま、そんなことより、今日はどこに行く?何をする?」
一方的に文句を言いつけたあゆは、早速話題を今日のデートにすり替えた。
「ったく、なんなんだよ・・・。」
ま〜いつものことだしな、そう割り切った祐一は今日のデートのプランを頭の中で反芻する。
「そうだな、まずはいつものごとく百花屋だな。んで、そこでしばらくのんびりしながら、何するか考える。」
「・・・祐一君、今日のこと何も考えてこなかったね・・・?」
「あっ、あははは、いや、ここんとこほぼ毎日会ってたからさ、ちょ〜っとネタ切れ気味でな〜・・・、あっはははは・・・」
そう、夏休みに入ってからというもの、あゆと祐一はほぼ毎日のように会っては、市民プールに行ったり、公園に行ったり、映画館に行ったり、ちょっと街を離れて動物園や遊園地に行ったりと、もうたいがいの所には行っていた。あと残っている一般的なデートプランといえば、夏祭りか、キャンプ、海、あとは夜に花火をするくらいのものだった。
「ん〜、まあいっか。とりあえずは百花屋だね♪
じゃあ、レッツゴ〜〜〜!!」
細かいことは気にしない性格のあゆは、さっきまでは不満そうな顔をしていたくせに、もう満面の笑顔となって、祐一の前に立って山を降り始めている。
「ほんっとうに、ころころ表情の変わるやつだな、お前って・・・。」
祐一は半ばあきれつつも、そんなあゆを愛おしく見つめていた。
カランコロン。
「いらっしゃいませ〜。」
祐一たち御用達の喫茶店・百花屋。そこは高校生達のたまり場でもあり、平日の放課後は多くの生徒達であふれていたりする。ちなみに、祐一のいとこの水瀬名雪はここのイチゴサンデーが大のお気に入りである。
ドアベルの音とともに、店員さんの声が聞こえてくる。店内は冷房が効いていて、とても快適な空間となっている。あゆと祐一の二人は、店内をぐるっと見回す。朝の時間帯ということもあって、中はけっこうすいている。そんな中に、見慣れた顔を二つ見つけた。
「おっ!栞に香里じゃないか!」
真っ先に気づいた祐一はその少女らに声をかける。
「あっ、お兄ちゃん!!」
それに答える黒髪のショートカットの少女、美坂栞。
盛大に転ぶ祐一。隣であわてて祐一を助け起こすあゆ。必死に笑いを堪えているウェーブのかかった若干茶色がかった黒髪の少女、美坂香里。
「あはは、祐一さん大丈夫ですか?」
さも、祐一が何かにつまづいて転んだかのように気遣う栞。
「栞〜、いつの間にそんな冗談を言えるようになったんだ〜・・・?」
「えへへ、びっくりしました?」
「びっくりなんてもんじゃないぜ・・・。心臓に悪い・・・。」
「プッ・・・、あははははははは。」
ついに堪えきれなくなったのか、香里が盛大に笑い出した。
「あははははは。」
つられてあゆも笑い出す。
「笑うな、香里!!!お前もだ、あゆ!!!」
「あははは、ごめん、ごめん、祐一君。それから、久しぶりだね、栞ちゃん♪それから香里さんも。」
「はい、お久しぶりですあゆさん。」
「うふふ、久しぶりね、あゆちゃん。それから相沢君も。」
栞は、半袖のワンポイントシャツに、首からストールをセーラー服の襟のようにしてまいている。下は黒いミニスカートを穿いている。一方、香里は赤紫色のTシャツに、薄地の白いベストを羽織り、下はミニスカートという出で立ち。なんとなく、祐一たちが去年まで通っていた高校の制服を髣髴とさせる。
祐一とあゆは二人の座っていた席の隣の席へと行き、腰掛けながら尋ねた。
「なんで、二人はこんな朝からここにいるんだ?」
「あら、いたら悪い?」
と香里。
「いや、悪いわけじゃあないけど・・・。」
「なんとなく、お姉ちゃんと朝早く起きたから、朝の散歩にでも行こう、ということになって。それで休憩のためにここに入ったんです。」
と栞。
「へ〜、そうなんだ〜。でもすっごい偶然だよね!こんなところで会うなんて!!」
とあゆ。
「ああ、まさに奇跡だ!」
と祐一。
「あら、起きないから奇跡、って言うのよ?」
「お姉ちゃん、それ私のセリフです・・・。」
栞のそのセリフに4人はいっせいに笑い出す。
店員がやってきて、あゆと祐一の注文をとった後、4人は再び話し始める。
「で、お二人さんは相変わらずデートなわけね?」
「ああ、まあそんなところだな・・・。それより香里の方こそどうなんだ?北川とは上手くいってんのか?」
「はい、お姉ちゃんと北川さんはもうラブラブで・・・」
「ちょっ、栞!あんた、何デタラメ言って・・・」
「え〜、そうなの?!聞かせて、聞かせて〜!!」
「あのですね、この間なんか・・・」
「え〜〜〜い、やめ〜〜〜いっ!!」
顔を真っ赤にさせた香里が、内緒話の体勢に入ったあゆと栞の間に無理やり割って入り、
「ところで、相沢君、例の件はどうなったの?」
と強引に話をそらそうとする。
「話を逸らしたな、香里・・・。まあいいか。例の件については、昨日の夕方に北川から聞いてすぐにメールしたよ。で、夜には返事を貰ったよ。今日にはドイツを立つ、って言ってたから、明日の夕方か昼ごろには着くんじゃないかな?ただ、佐祐理さんは実家に少し用事があるみたいだから、2,3日は会えないけど、ってな。」
「ねえ、祐一君、何の話?舞さんたち帰ってくるの?」
とあゆが祐一に尋ねる。ちなみに、「佐祐理さん」に「舞さん」というのは、祐一たちの高校時代の先輩である「倉田佐祐理」と「川澄舞」のことである。彼女らは現在ドイツに留学中なのである。ちなみに、祐一がメールを送った夕方、ドイツでは時差の関係から朝の時間帯ということになる。
「あゆには関係のない話だ。」
と祐一。
「うぐぅっ〜〜〜!?」
「関係ないわけないでしょ?相沢君、まだあゆちゃんには話してないの?」
「ああ、すっかり忘れていたよ。」
「うぐぅ、やっぱり祐一君いぢわるだよ・・・。で、一体何の話なの?」
「海ですよ♪皆で海に行こう、って話になったんですよ、あゆさん。もちろんあゆさんも行きますよね?」
と、満面の笑みを浮かべた栞が答える。
ちょうどそのとき、あゆと祐一の頼んだメニューが運ばれてきた。あゆが頼んだのは百花屋の新メニュー・「デラックスたい焼きサンデー」、祐一はコーヒーを頼んでいた。
「海?!うわ〜、これすごいね〜!!行く行く!!ハフハフ、オイヒ〜〜♪ボクも行くよ!!やっぱ、夏は冷えたたい焼きに限るね〜♪」
と、「デラックスたい焼きサンデー」を食べながら答えるあゆ。
「ったく、海の話かたい焼きサンデーを褒めるか、どっちかにしろ!というか、それ本当に上手いのか?冷えたたい焼きって・・・」
「おいひいよ〜♪祐一君も食べてみる?」
そういって祐一に差し出す。それは、胴体で二つに分けたたい焼きをちょうど「タイの尾頭付き」のような感じで容器に入れ、刺身の部分にサンデーが入ってる、といった外観だ。はみ出たこしあんと生クリームがなんともグロテスクな感じに混ざり合っている。ちなみに、たい焼きの皮はソフトクリームのコーン状と同じもので出来ている。
「・・・いや遠慮しておく・・・」
とにべもなく断る祐一。
「本当に?残念だな〜、本当においしいのに・・・」
と心底落胆するあゆ。
「そんなに、おいしいんですか?」
「うん!じゃあ栞ちゃん、食べてみる?」
「栞、やめときなさ・・・」
「ハイ、頂きます!!」
香里の制止の声も聞かず、あゆからサンデーを受け取った栞は、たい焼きの皮とあんとサンデーを少量スプーンですくって一口含む。
「「あっ・・・」」
祐一と香里がハモる。
「どう、栞ちゃん?おいしいでしょ?」
「・・・こ、これは・・・」
ワナワナとスプーンを握り締めたまま、下を向き、震える栞。
「お・・・、オイ!大丈夫か栞!?」
「ちょっ・・・、栞!?だからやめなさいって・・・」
「コラ、あゆお前栞になんてことを・・・」
あゆを殴ろうと構えた祐一。しかし、その機先を制するかのように栞が、
「おいしい・・・」
とつぶやく栞。
「「へ・・・?!」」
いきなり出てきた意外な単語に思わず素っ頓狂な声を上げる祐一と香里。
「すっごくおいしいです!!こんなおいしいもの、初めて食べました!!」
「でしょ?!おいいしいよね〜!!うん、栞ちゃんは分かってるよ!!きっと将来大物になれるね!!このボクが保障するよ!!」
あゆが小さな胸を大きく反らせて答える。
「ありがとうございます!」
満面の笑みで答える栞。
展開についていけない香里。
「本当においしいのか?」
怪訝な様子で例のサンデーを一口ほうばる祐一。無論、「一般人」の舌に合うような味ではなく、咳き込むことになる。
「まあ、海もそうだが、来週には隣町で夏祭りがあるだろ?せっかくだから、それにも皆で行ってみないか?」
「デラックスたい焼きサンデー」について熱く語り合っていた栞とあゆが落ち着くのを待って、祐一が切り出す。
「ああ、そういえば来週だったわね、夏祭り。」
「夏祭り!!ボク、すっごく楽しみだよ〜〜!!夏祭りって行ったことなかったんだよね!!」
「私もです!夏祭りって、私も行ったことないんですよね・・・」
「えっ、そうなの栞ちゃん?」
「ハイ。体調によくないからって、人ごみの多いところにはあまり行かないようにお医者さんに言われてたんです・・・」
「そっか。じゃあ、栞もあゆも初体験なんだな。」
「じゃあ、皆で行きましょうか、夏祭り。まあ、北川君はたぶん暇でしょうからいいとして、美汐ちゃんには栞が、真琴ちゃんと川澄さんたちには相沢君、名雪には私から電話して伝えておくわ。それで結果は私に教えてね。その後で、詳しい待ち合わせ時間なんかは決めるから。
海のほうは、夏祭りの日に集まったときに、皆の都合のいい日を決めましょう。万が一、夏祭りに来れない人がいたら、連絡をとったときに、海に行ける日を一緒に聞いておいてね。それでいいわね?」
と、香里。すっかりリーダーシップをとってしまっている。さすがは元クラス委員長といったところか。
「了解。」
「分かりました。」
「うぐ・・・?」
一人首をかしげるあゆ。そんな彼女を無視して話はまとまり、4人は百花屋をあとにする。
その後、あゆが「海に行くんだから、少しでも泳げるようになりたい!」と言い出し、せっかくだからと、4人で市民プールに行くことが決まった。香里と栞は2人のデートの邪魔になるんじゃないのか、と当初は断っていたが、「4人の方が楽しいに決まってるよ!」というあゆの一言に、それならば、ということで合意。
一旦解散して、水着を取りに戻る4人。その後、市民プールで合流した4人。
入場の際に、あゆと栞が中学生に間違われたりといったハプニングがあったが、水着に着替えるため4人は更衣室へ。
当然、女子と違って時間のかからない祐一は、皆より一足先にプールサイドへ。黒い海パンに、上半身には白いTシャツをはおった格好でプールを見つめる祐一。そんな彼に、
「ああああ〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!ゆう〜いち〜〜〜〜っっ!!」
と叫びながら、とび蹴りをかます少女。
「グハッッ・・・!!!」
悶絶する祐一。
「お・・・、お前は・・・?!」
その後、プールを戦場に、激しい戦いが繰り広げられることになる・・・?!